研究課題/領域番号 |
26709018
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小川 智之 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50372305)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | スピンナノクラスター / ハイブリッド材料 / 電磁波吸収 |
研究実績の概要 |
今年度、低周波帯域における損失を発現する機構として(i)磁化反転損失、(ii)うず電流損失、(iii)磁気共鳴損失の4つの因子を考慮し、半定量的な理論的検討を行った。電気抵抗値はバルク金属より少なくとも1~2桁程度大きく、また、着目している周波数帯域が低周波であるため、(ii)うず電流損失は極めて小さい。また、(iii)磁気共鳴損失を低周波帯域で発現させるためには地磁気以下の極小さい内部磁場が材料内部で必要であることが分かり、本研究におけるハイブリッド材料中において極低磁場の存在は否定できないものの可能性は小さいと考えられる。(i)磁化反転損失として、純鉄ナノ粒子あるいは酸化鉄ナノ粒子の場合の結晶磁気異方性エネルギー、および、観測される低周波ブロッキング周波数と特性緩和周波数を仮定し、球状ナノ粒子の体積から粒径を見積もると、12~14nmとなることが分かった。 マグネタイトを主相とする酸化鉄ナノ粒子について、異なる二種類の前駆体、鉄ペンタカルボニル、あるいは、鉄オレエートを用いて合成を試みた。鉄オレエート前駆体では、マグネタイト相に加え、ウスタイト相も混在していることが分かった。鉄ペンタカルボニル前駆体では、平均粒径8nmのマグネタイト単相ナノ粒子を得ることが出来た。前年度までに合成法を見出した純鉄ナノ粒子と共凝集法を用いて混合し、マグネタイト:純鉄の体積割合が9:1となるハイブリッド材料を作製した。その結果、10Hz~10kHzの低周波帯域において磁気損失がほとんどないことが分かった。これは(i)磁化反転損失がナノ粒子の粒径やハイブリッド材料における混合比率に敏感であることを示唆していることが考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粒径のばらつきが大きいものの、純鉄ナノ粒子と同程度の大きさの酸化鉄ナノ粒子の合成に成功しており、純鉄/酸化鉄ハイブリッド化した集合体における磁化率の低周波特性に関する知見が得られ始めてきた。また、低周波帯域における損失には磁化反転機構が重要な役割を果たしていることが分かってきた。これらの知見をもとに、次年度以降、低周波帯域における損失機構の理解の更なる深化につなげる。
|
今後の研究の推進方策 |
低周波帯域における磁気損失機構の解明を目指して、磁化反転機構を探る端緒となる結晶磁気異方性エネルギーと体積の積で表される異方性エネルギーに着目し、純鉄ナノ粒子/酸化鉄ナノ粒子ハイブリッド材料における有効異方性エネルギーを系統的に変化させた試料を共凝集法を用いて作製し、その低周波磁気特性を評価する。一方、ハイブリッド材料の共凝集サイズを定量評価し、共凝集サイズと異方性エネルギー、および低周波磁気特性との相関を明らかにすることで低周波磁気損失の増大に繋がる材料および物理指針を得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度、実験に用いる原材料や高純度ガス類、試薬類などの消耗品類の消費量について必要最小限に留め、効率的に試料作製や試料評価等を行うことで消耗品費を節約できた。このため、次年度使用額が発生している。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、上記のように今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額を含んでいる。次年度請求額とあわせ、損失機構解明に向け加速度的に研究を推進するため、共凝集によりハイブリッド化した二次凝集粒子の定量評価を行うための装置導入に加え、酸化鉄ナノ粒子の大量合成装置、粒子プロセスガスや試薬類等の消耗品費として研究費を使用する。また、構造評価に関して専門的かつ高度な分析技術を必要とする場合、積極的に外注分析を行うための費用としても研究費を使用する。さらに、磁石材料、およびナノ材料合成、構造・物性評価関連技術をテーマとした研究会や国内学会に出席し、情報収集や成果発表を行う。また、酸化鉄ナノ粒子や共凝集法、ナノ粒子の磁化反転機構について実績のある学外の専門家の先生との打合せ、共同実験のための旅費としても研究費を使用し、効率的な研究推進を図る。
|