研究課題
本研究対象となる二硼化マグネシウム(MgB2)は、超伝導マグネットを応用した磁気共鳴画像(MRI)装置の小型・軽量化とその運転・維持費の低減化が期待できる優れた物性を有しており、次世代超伝導材料の候補に挙げられている。しかしながら、この材料を実用化水準まで到達させるためには、輸送臨界電流特性の改善や原材料の低コスト化など、線材化するための技術・手法をさらに改善することが強く望まれている。そこで本研究では、次世代MRI装置用マグネットに適したMgB2超伝導線材の研究・開発に従事した。初年度は、原材料である硼素粉末と複合多芯線構造の最適化に関する研究に着手した。まず、研究協力者Jung Ho Kim准教授(University of Wollongong, Australia)が従事している、高純度で非晶質な硼素の微細粉末を低コストで精製するプロジェクトに着目し、その研究から得られた硼素粉末と炭素添加剤を用いてMgB2線材を作製して超伝導特性を評価した。その結果、市販の高価な非晶質粉末と炭素添加剤から作製したMgB2線材とほぼ同等の輸送臨界電流特性が得られることがわかった。しかしながら、実用化水準を満たす線材を作製するためには、硼素粉末の精製法のさらなる低コスト化が必要であることが明らかになった。この原材料に関しては、粒径もMgB2線材の組織と臨界電流特性に大きく影響することが知られている。この追試・検証実験と異なるアプローチによるコア構造の最適化研究に従事した結果、線材コア内の空隙制御法に関する新たな知見を得ることができた。また、単芯線だけでなく複合6芯線を作製して、その構造及び超伝導特性を評価した。その結果、Cold high pressure densification装置により線材コアを高密度化することで、複合多芯線においても、その臨界電流特性が大きく改善されることが示唆された。今後は、これらの知見を組み合わせることで、線材化技術・方法のさらなる改善が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進展している理由は、初年度の研究実施計画だけでなく次年度以降の研究実施計画の一部も並行して従事したからである。具体的には、初年度の研究計画のとおり、硼素の研究で得られた新しい硼素粉末を原材料とし、この粉末を用いてMgB2線材の単芯線作製と臨界電流特性の改善に関する研究に着手した。この線材作製に関しては、本研究上で重要な申請設備であるSD-2000型スエージングマシーンや小型高真空管状炉などの装置を導入して達成することができた。この試料作製の確立により、新しい硼素粉末から作製したMgB2線材のおおよその臨界電流特性を把握することができた。しかしながら、SD-2000型スエージングマシーンによる線材化加工の工程条件は極めて多数に及び、初年度内に線材の臨界電流特性に関して最適な作製条件を見出す見通しを立てることができなかった。そこで本研究目的を達成するために、従来の線材作製方法も再度導入して臨界電流特性を改善する研究にも従事し、コア構造の空隙制御に関する新たな知見を得ることができた。また、初年度研究計画の遂行が当初より時間がかかることを見越して、次年度以降に研究計画していた多芯化構造の最適化に関する研究にも並行して取り組み、線材コアの高密度化に関する新たな知見を得ることができた。したがって、想定より時間を費やす研究もあったが、従来の作製方法や次年度以降の研究計画の一部導入などの対処を考慮して、現在までの達成度を総合的に判断するとおおむね順調に進展しつつある。
今後の研究は、初年度に引き続き、MgB2線材の臨界電流特性と作製コストの改善に関する研究と、さらにMgB2の格子欠陥の形成機構解明とその制御に関する研究にも従事する。まず、初年度の研究実施計画を遂行することで、熱処理・加圧条件や炭素添加量の異なるMgB2線材を得ることができた。これらの試料の原子配列・構造を評価し、焼結温度の高低と加圧及び炭素添加量の増減により、硼素サイトの単原子空孔や積層欠陥、刃状転位などがどのように形成し、超伝導電流の輸送にどのような影響を与えるか評価する。具体的には、研究代表者が粉末X線回折測定で得た回折データのリートベルト解析などの方法による構造解析・評価に従事し、研究協力者のJung Ho Kim准教授(University of Wollongong, Australia)が走査型透過電子顕微鏡や電子エネルギー損失分光法などによる高分解能観察・分析に取り組み、硼素サイトに格子欠陥が形成する機構と臨界電流特性への影響を解明する。また、MgB2線材の臨界電流特性と作製コストを改善する最適な作製条件を見出すため、前年度に購入したSD-2000型スエージングマシーンや小型高真空管状炉を用いてMgB2線材やMgB2バルク材を作製し、その超伝導特性の評価を引き続き行う。今後の研究実施計画の進行において、何らかのトラブルにより遅れが生じる場合は、次年度の研究実施計画の一部を並行して行い対処する。また、今年度購入予定の主要な物品に関して、卓上型スエージングマシン(SD-500型)の購入を予定している。しかしながら、研究遂行に不可欠な既存設備の不具合や研究目的の達成のために研究計画及びその効率の調整・変更・改善が必要になった場合は、予算との兼ね合いになるが卓上型スエージングマシン(SD-500型)の購入または購入取りやめの再検討と、その新たな問題に対処可能な物品を購入するなどして臨機応変に対応していく。
次年度使用額が生じた理由は、申請設備SD-2000型スエージングマシンにおいて、この装置に使用するダイスの消耗に対処するためである。具体的に耐久消耗品であるダイスは、線材の形・大きさ・材質と減面加工の条件により、その消耗速度が変化する。本研究課題である線材化方法の確立とその最適化を図るためにも、孔径の異なる様々なダイスを用いて細線化し、どの減面率が最適であるか明らかにする必要があった。しかしながら、様々な減面率(特に高減面率)でのダイス加工は、まれではあるが最適な条件を見出す前に、最悪の場合でダイスが消耗・破損することも考えられる。したがって、初年度購入した孔径の異なるダイス31組のうち、全てのダイスが消耗することはまず考えられないが、少なくとも10組程度は新たに再購入または修繕する可能性を考慮して、当該年度研究期間中いつでもこの問題に対処できる費用を確保したため、次年度使用額が生じた。
次年度使用額は、次年度期間中も引き続き同様に、ダイスの消耗や破損が生じた場合に対処できる費用に充てる。しかしながら、今後の研究の推進方策で述べたとおり、既存設備の不具合への対処や研究目的の達成のために研究計画・効率に調整・変更・改善が必要となることもありうる。したがって、次年度使用額について、まずはダイスの消耗・破損が生じた場合に対処できる費用として確保するが、何らかの新たな問題が生じた場合は、翌年度分として請求した研究費と合わせて臨機応変に対処できる費用として使用し、本研究を円滑に進めていく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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