研究課題/領域番号 |
26709021
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
前田 穂 日本大学, 理工学部, 助手 (80610584)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導材料・素子 / 二硼化マグネシウム / 超伝導線材 / 超伝導マグネット / MRI / 格子欠陥 / 臨界電流密度 / 固体窒素 |
研究実績の概要 |
本研究で次年度となる平成27年度は、二硼化マグネシウム(MgB2)線材の作製及び臨界電流特性の改善と熱的安定性の最適化に関する研究に従事した。 まず、初年度と同様に引き続いて、研究協力者のJung Ho Kim教授(University of Wollongong, Australia)が従事している原材料の研究から得られた硼素粉末を主に用いて、MgB2線材の作製を行った。具体的には、主に3つの線材作製条件、すなわち、線材化の減面加工条件と熱処理・加圧条件、そして磁場下の臨界電流特性の改善に欠かせない炭素添加条件に焦点を当てて進めた。これらの異なる様々な条件からMgB2線材を作製して、その組織・構造と臨界電流密度の増減に与える影響の評価を行った。その結果、高臨界電流特性を有するMgB2線材の作製方法の最適化に関する知見を得ることができた。 また、次世代の核磁気共鳴画像(MRI)診断装置用超伝導マグネットのコンセプトの一つである、固体窒素冷却下でのMgB2超伝導マグネットシステムに着目して研究を推進した。具体的には、実際にその冷却システムを適用した小型MgB2マグネットを作製して、世界で初めて液体窒素冷却下における超伝導接続による永久電流モードでの超伝導マグネット特性の評価を行った。その結果、MgB2線材のマグネット特性及び熱的安定性の最適化に関する知見を得ることができた。 今後は、これらの知見を加味して研究を推進していくことで、次世代MRI装置用マグネットに適したMgB2線材化技術・方法のさらなる改善が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している理由は、次年度となる平成27年度の研究実施計画だけでなく最終年度となる平成28年度の研究実施計画の一部も並行して従事したからである。 具体的には、次年度となる平成27年度の研究計画のとおり、初年度に引き続き、硼素の研究で得られた新しい硼素粉末を原材料とし、この粉末を用いてMgB2線材の作製と構造評価及び臨界電流特性の改善に関する研究に着手した。この線材作製に関しては、本研究上で重要な申請設備であるSD-2000型スエージングマシーンや小型高真空管状炉に加えて、平成27年度に購入したドローベンチなどの装置を導入して推進することができた。このドローベンチは、当初の研究計画の変更及び改善のため、当初購入予定であったSD500型スエージングマシーンの代わりに導入した装置である。この装置の導入により、MRI装置用超伝導マグネットに重要となる形状対称性に優れたMgB2線材の作製を進めることができた。しかしながら、初年度のSD-2000型スエージングマシーンによる線材化加工の工程条件と同様に、ドローベンチによる線材化加工の工程条件も極めて多数に及び、次年度となる平成27年度内に線材の臨界電流特性に関して最適な作製条件を見出す見通しを立てることができなかった。そこで平成27年度研究計画の遂行が当初より時間がかかることを見越して、最終年度となる平成28年度に研究計画していたMgB2線材の熱的安定性の最適化に関する研究にも並行して取り組み、次世代MRI超伝導マグネットに適した線材の熱的安定化に関する新たな知見を得ることができた。したがって、想定より時間を費やす研究もあったが、次年度以降の研究計画の導入による対処を考慮して、現在までの達成度を総合的に判断するとおおむね順調に進展しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成28年度は、次世代MRI用マグネットの実用化の上で重要な指標となる、MgB2線材の臨界電流特性の改善と熱的安定性の最適化に関する研究に引き続き従事する。 まず、初年度と次年度の研究実施計画の遂行から得られた知見に基づいて、高臨界電流特性を有するMgB2線材を作製し、MRI用マグネットの応用の観点から、臨界電流密度と熱的安定性の2つのパラメータを最も改善できる条件を探求してその確立を試みる。具体的には、研究代表者が初年度に購入したSD-2000型スエージングマシーンや小型高真空管状炉と次年度となる平成27年度に購入したドローベンチを用いてMgB2線材やMgB2バルク材を作製し、その超伝導特性の評価を引き続き行う。熱的安定性の評価は、研究協力者のSeyong Choi博士(Korea Basic Science Institute、Republic of Korea)とJung Ho Kim教授(University of Wollongong, Australia)と協力して引き続き行う。また、次年度と同様に最終年度も、研究代表者と研究協力者のJung Ho Kim教授が、臨界電流特性の改善に大きく寄与するMgB2結晶内の格子欠陥について、その形成機構と制御に関する研究に引き続き従事する。 平成28年度の研究実施計画の進行においては、現状にて平成28年度購入予定の1品又は1組若しくは1式の価格が50万円以上の主要な物品を必要としない予定である。しかしながら、研究遂行に不可欠な既存設備の不具合・故障や研究目的の達成のために研究計画及びその効率の調整・変更・改善が必要となる場合は、その新たな問題に対処可能な物品(1品又は1組若しくは1式の価格が50万円以上の物品)を購入するなどして臨機応変に対応して研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、臨界電流測定用サンプルロッドの消耗への対処と、昨年度と同様に引き続き申請設備SD-2000型スエージングマシンと平成27年度に購入したドローベンチに使用するダイスへの消耗に対処するためである。 具体的には、研究計画申請時に購入予定であった大電流に対応した臨界電流測定用サンプルロッドを、予算の都合でその購入を見合わせた。この代替として、既存設備で十数年使用しているサンプルロッドを用いて研究を進めている。しかしながら、このサンプルロッドは、その使用回数・条件によって最悪の場合で消耗・破損することも考えられる。また、耐久消耗品であるダイスについても同様である。したがって、本研究の推進に必要不可欠なサンプルロッドと数組のダイスを修繕する可能性を考慮し、当該年度研究期間中いつでもこの問題に対処できる費用を確保したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、次年度(最終年度)期間中も引き続き同様に、臨界電流測定用サンプルロッドとダイスの消耗・破損が生じた場合に対処できる費用に充てる。しかしながら、今後の研究の推進方策で述べたとおり、既存設備の不具合への対処や研究目的の達成のために研究計画・効率に調整・変更・改善が必要となることもありうる。したがって、次年度使用額について、まずはサンプルロッドとダイスの消耗・破損が生じた場合に対処できる費用として確保するが、何らかの新たな問題が生じた場合は、翌年度分として請求した研究費と合わせて臨機応変に対処できる費用として使用し、本研究を円滑に進めていく。
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