研究課題/領域番号 |
26709023
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小寺 哲夫 東京工業大学, 工学院, 准教授 (00466856)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子デバイス / スピン / 量子情報 / シリコン / 電荷センサ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、シリコン量子ドット中の電子スピンを情報の担い手として用いる量子計算の物理の解明、ハードウェアのための基本技術の実現を行うことである。将来的に既存シリコンテクノロジーと量子計算機の融合を目指す。物理としては、シリコン量子ドット構造に特有のスピン緩和要因、バレーやスピンの関与する電子輸送特性を明らかにすることを目指している。技術としては、Si基板やSi/SiGeヘテロ基板を利用した独自の量子ドット構造を作製する。また、Si基板から作製したMOS型新構造量子ドットやSiGeヘテロ基板を利用した新構造シリコン量子ドット構造のそれぞれに適した電子スピンの操作技術や検出法を開発し、確立する。本年度は、電子輸送特性を測定することで、バレーの縮退の程度やバレーの関与する効果について調べることを目指した。さらに、緩和時間についても明らかにすることを目指し、技術の開発を行った。 新構造のMOS型素子として、極薄膜シリコン量子ドットを開発した。Silicon on insulator (SOI)基板に対して熱酸化とフォトリソグラフィ・ウェットエッチングプロセスを繰り返すことで6 nm程度の極薄膜のシリコン層を形成し、電子線露光とドライエッチングにより量子ドットを形成した構造である。本素子を低温で評価した結果、単一量子ドット中の単電子トンネル現象を示す規則的なクーロンダイヤモンドが明瞭に観測された。本素子をモデル化するために電子顕微鏡写真から形状を取り込み、3次元の詳細なデバイス構造のモデル化を行った。この結果、実験データをよく再現することに成功した。また、緩和時間測定のため、パルス電圧を印加できるように測定系を構築し、パウリスピンブロッケードにおけるT1緩和時間を測定した。0.5ms程度であることを示唆する初期的な実験データが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、素子の試作と基礎特性の測定を行った結果、より閉じ込めの強い量子ドットを作製する必要があることが明らかになった。そこで、新構造素子として、極薄膜シリコン量子ドットを開発した。6 nm程度の極薄膜のシリコン層を形成し、電子線露光とドライエッチングにより量子ドットを形成した構造である。設計通りの動作を確認し、モデル化と数値計算による実験データの再現に成功した。計画以上の新たな技術が得られた。また、緩和時間測定のため、パルス電圧を印加できるように測定系を構築し、パウリスピンブロッケードにおけるT1緩和時間を測定することもできた。本研究は、シリコン量子ドット中の電子スピンを情報の担い手として用いる量子計算の物理の解明、ハードウェアのための基本技術の実現を行うことを目的とし、将来的に既存シリコンテクノロジーと量子計算機の融合を目指すものであり、計画以上の成果を得ながら、順調に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製・評価した素子に対してマイクロ波を印加し、電子スピン状態の回転操作すなわち電子スピン量子ビットの実現を行う。電子スピンが静磁場下において行うラーモア歳差運動の回転周期に同期した回転磁場を、静磁場と垂直方向に印加することで、共鳴をおこして電子スピンを回転させる。実質的な回転磁場を印加するために、微小磁石によって傾斜磁場を作ったうえでマイクロ波帯の交流電界を印加する。またスピン状態の高速読み出し系を構築して、この電子スピンの回転を時間分解パルス測定することで、スピン緩和時間の評価、緩和要因の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度作製した素子の基礎特性評価の結果、より閉じ込めの強い量子ドット構造を作製する必要があることが明らかとなった。次年度以降にも、改良した素子の作製、評価が必要となり、また測定系としても高周波測定系の改良が必要となり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として、改良した素子の作製に必要な半導体基板、微細加工用薬品類、蒸着源、改良した素子の測定に必要な寒剤、真空部品、測定部品、測定部品、測定器に使用し、旅費として、成果発表のための外国出張や国内出張に使用する。
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