研究課題/領域番号 |
26709025
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 一浩 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90549346)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | MEMS / バイオセンサ / ファブリペロー干渉計 / CMOSイメージセンサ / 非標識 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
生体分子に働く分子間力と質量の同時検出を目的に、H26年度は分子間力を検出する光干渉型表面応力センサと、質量を定量するMEMS共振器の各要素技術を個別に開発を進めた。光干渉型センサは分子を吸着する可動膜上にハーフミラーとして銀を30 nm成膜することにより波長選択性を向上させ、分子間力の信号伝達効率にあたる透過スペクトルの勾配を4倍に向上させた。また、フォトダイオードを作製する基板濃度とn-wellの不純物濃度を調整して分光感度を3倍に向上することができた。このセンサ上に牛血清アルブミン抗体(anti-BSA)0.01 mg/mL を380 pL (3.8 pg)を滴下したところ、センサの中央付近が上に凸形に49.7 nm変化したことが観察された。したがって、サブピコグラムのタンパク質を検出できる能力があることが示唆された。 また、タンパク質の液中でのセンシングのため、センサ上にマイクロ流路を一体化した。生理食塩水の送液中は一定電流が観測されたのに対し、anti-BSAを送液すると約250 secで6 nAの光電流変化の検出を確認した。圧力変化と逆方向の電流応答が取得できたことから、分子吸着に起因した光電流変化と考えられる。 次に、吸着分子の質量の同時検出を達成するため、光干渉センサと構造的な干渉を起こさないよう、リング型PZT電極によるMEMS共振センサの試作を行った。レーザードップラ振動計を使用して共振振動を測定した結果より、共振周波数は536 kHz, Q値は108であった。さらに共振器のインピーダンス測定を行い、直列共振点が機械共振と一致する点に観測され、電気的に分子の質量検出が可能であることが示された。質量感度評価のため、ダイフラム上に10 pgのPt原子を堆積したときに、2 kHzの周波数シフトが測定され、質量感度5.22 fg/Hzが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光干渉型表面応力センサは、分子間力の信号伝達効率にあたる透過スペクトルの勾配を4倍に向上させることができた。目標の伝達効率10倍を達成させるためには基板側にもハーフミラーを成膜することにより達成可能であるため、次年度以降にさらに特性の向上を目指す。インクジェット法により、センサ上に分子の滴下を行った実験では、滴下質量に比例した変形応答を取得することができた。従来はセンシングエリア上に吸着している分子の量と出力の関係を明らかにする報告はなかったため、今回用いた手法により吸着分子と分子間力の関係の調査を進める。 液中での非標識タンパク質検出は、検出濃度と検査時間はトレードオフの関係にあるため、低濃度を測定するためには長時間の検査時間が必要になる。ベンチマークに設定しているピエゾ抵抗型の表面応力センサと比較すると、同じ検査時間で一桁濃度の低い溶液から出力応答を取得することができた。この測定に使用したデバイスは、工程の簡略化のためハーフミラーを含まないセンサを用いて取得したデータのため、さらに低濃度の溶液中からターゲットを検出できる可能性を示している。 質量センサの課題では、光干渉型表面応力センサとの一体化を目的にリング型の圧電電極を新規に提案し、インピーダンス評価により電気的に共振周波数を検出可能であることを示した。この構造から、ダイアフラム上に吸着した生体分子の分子間力と質量を同時に電気信号として出力できる見通しを得ることができた。プロトタイプでは質量感度5.22 fg/Hzが得られたが、ダイアフラムの薄膜化によって感度向上が可能なため、次年度以降に最適化を行う。
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今後の研究の推進方策 |
(1)分子間力・質量マルチモーダルセンサの開発 H26年度開発した要素技術を組み合わせ、光干渉型分子間力センサにPZT電極を集積化し、生体分子間の相互作用力と分子質量を同時に検出するセンサの試作を行う。すなわち、同一のセンシングエリア内において印加電圧OFFの時に静的なたわみを光透過率で読み出し、共振駆動により周波数解析から質量を測定するマルチモーダルセンサを開発する。干渉計の可動膜として使用しているポリパラキシレン(パリレン)は常温CVDによって成膜可能なため、ストレスのないフラットな可動膜が得られる。しかしながら200℃以上の高温下では膜が劣化してしまうため、高温の成膜プロセスが必要なPZT膜は、パリレンの成膜前に行うなど熱履歴を考慮してプロセスの整合をとる。センサの評価には最も一般的なタンパク質であるアルブミンや、前立腺特異抗原などの腫瘍マーカーを用いて検証試験を行う。 (2)マルチ抗原抗体反応検出、構造変化可視化 製作したPZT・光干渉マルチモーダルセンサ上において抗原抗体反応の検出を行う。単素子でデバイスの最少検出限界の評価を行い、複数種の分子検出に向けてはインクジェット法を用いて100ミクロンの素子上に抗体分子の塗り分けを行う。複数の抗体分子を固定したセンサチップ上で、分子の選択的検出を実証する。26年度に導入したSIJ社のインクジェットパターニング装置により抗体溶液を100 pLずつ滴下を行った結果、可動膜の機械的な損傷はなく抗体の塗り分け可能であることを確認している。また、センシングエリア上での分子の構造変化の応答を取得するため、カルシウムイオンを吸収して構造変化を発生させることで知られているカルモジュリンをセンサ表面に吸着させ、カルシウム刺激によるセンサ出力を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
サブフェムトインクジェット加工装置の調達にあたり、自動パターニング機構を削減し、当初計画より経費の節約ができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
センサの試作または、バイオ試薬等の消耗品として使用する。
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