平成28年度は、鉄筋腐食が生じたコンクリート構造物の力学性能を評価可能な解析システムを開発し、数値シミュレーションを実施した。また、鉄筋腐食を再現した模擬試験体を作製し、腐食鉄筋の引抜き挙動に関する実験的検討を行った。 物質移動と体積変化による初期応力を再現可能な三次元解析システムを用いて、コンクリート中の異形鉄筋の腐食過程におけるひび割れ進展性状に関する数値シミュレーションを実施した。また、腐食した異形鉄筋の付着・引抜き破壊メカニズムを解明すべく、腐食による体積膨張導入後の引抜き破壊シミュレーションを併せて実施した。既往の実験結果と比較した結果、本研究で開発した解析システムにより、鉄筋腐食により導入されるコンクリートひび割れを精度良く再現可能であることが分かった。また、腐食により異形鉄筋の引抜き耐力が低下することを確認することができた。 実験では、電食試験によりコンクリート中の異形鉄筋に質量減少率で20%程度の腐食を導入した模擬試験体を作製し、引抜き試験を実施した。その結果、腐食により異形鉄筋の引抜き耐力が低下することを実験的に確認するとともに、解析結果よりも実験における引抜き耐力が大幅に低下したことから、本検討範囲内においては、腐食ひび割れの影響のみならず、異形鉄筋のフシ形状の消失が付着性状に大きく影響を及ぼすことがわかった。 塩害によるコンクリート構造物の腐食は世界中で起こり得る、インフラ構造物の代表的な劣化形態である。とりわけ、インフラの老朽化問題が昨今の大きな課題となっている我が国では、コンクリート構造物の鉄筋腐食に対する健全性評価、維持管理手法の開発が望まれている。本研究の成果は、鉄筋腐食が生じたコンクリート構造物を再現し、その力学性能を高い精度で予測することを可能とするものであり、その社会的意義は極めて高いものと考えられる。
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