研究課題/領域番号 |
26709038
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福山 智子 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60587947)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 誘電緩和 / 電気容量 / コンダクタンス |
研究実績の概要 |
コンクリート中の鉄筋の健全性は,鉄筋コンクリート構造物の耐久性にとって重要な要素である。鉄筋の非破壊腐食診断手法として,電気化学的手法とその基準が広く用いられているが,様々な環境・材料などの条件のばらつきが測定に影響を及ぼし,腐食診断を困難にする場合が散見される。報告者のこれまでの調査においても,電気化学的測定による腐食診断と,鉄筋をはつり出して確認した腐食実態が一致せず,診断が不可能であった事例が存在した。 これらの背景を踏まえた本研究の当初目的は,電気化学的な測定値の変動要因となっているコンクリートの影響を定量的に明らかにし自然電位法や交流インピーダンス法といった電気化学的手法に及ぼす影響度を把握することで,正確な腐食診断を行うための基礎資料を得ることであった。しかし,その後の検討の結果から,コンクリートの物性が測定値に及ぼす影響を明確にするためには,鉄筋の自然電位や鉄筋/コンクリート界面のインピーダンスの測定だけではなく,コンクリート自体の誘電緩和測定がより適した手法であると結論するに至った。 誘電緩和測定は,交流電場に対する複合材料の周波数応答を利用した非破壊内部解析法として様々な分野で用いられている。これは,複合材料を構成する物質同士が接触する各界面に,材料の誘・導電率の相対的大小に起因するキャパシタが形成されていることを利用したもので,各周波数における材料全体の電気容量・コンダクタンスを測定・解析することによって材料の内部構造を明らかにする手法である。 本年度の研究により,コンクリートを構成する材料の各界面に着目し電気容量とコンダクタンスを測定することで,コンクリート内部の微細構造を電気化学的に二次元あるいは三次元のモデル化できる可能性が示唆された。次年度の研究により,このモデル化が実現されれば,コンクリートの影響を考慮した電気化学的腐食診断が可能になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄筋コンクリートの電気化学的な測定値の変動要因を定量的に明らかにするという本研究の当初目的に対し,これまで行ってきた交流インピーダンスの測定のみでは目的達成が困難であるとの結論に達した。その後の検討の結果から,コンクリートが測定値に及ぼす影響を明確にするためには,鉄筋の自然電位や鉄筋/コンクリート界面のインピーダンスの測定だけではなくコンクリート自体の誘電緩和に関する情報が必要であると結論するに至った。 本年度はコンクリートを構成する材料や含水状態をパラメータとして実験を進め,コンクリートの基礎的な誘電緩和特性に関する情報を得た。その結果,コンクリートの情報を単純な電気化学的素子の並列・直列回路として縮約するのではなく,面的な広がりをもつモデルとして可視化する可能性を見出した。このモデル化が実現すれば含水状態や材料の分布が把握できるようになるため,コンクリートの影響を考慮した電気化学的腐食診断手法の構築という本研究の目的に対する本年度の成果の寄与は大きいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により,各周波数電場下においてコンクリートの電気容量とコンダクタンスを測定することで,コンクリート内部の微細構造を電気化学的にモデル化できる可能性が示唆された。つまり,電気容量とコンダクタンスの周波数分布はコンクリートを構成する材料の種類(誘電率・導電率)と材料混和量で決まるため,コンクリートのように組合せが既知の材料であれば,内部の解析が可能ということになる。 内部構造の分布が電気化学的に解析可能となれば,腐食情報とコンクリートの物性情報を分離することができるようになるため,測定データの変動要因を補正した正確な電気化学的腐食診断が可能となる。 しかし,現状では誘電緩和情報は測定電極間の積算情報となってしまうため,本研究の次の段階として,複数の電極対を用いたコンクリートのトモグラフィ(微細構造と質的状態分布)を誘電緩和測定により取得することを目的とする。 入力電場の電圧や周波数を変化させることで測定スケールを調整し,複数の電極を用いることでコンクリート断層の幾何学的・電気化学的イメージングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度の研究では,当初想定より実構造物調査が少なかったため,研究費の余剰が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度は,2015年度から継続しているコンクリートの誘電緩和特性に関する研究に並行して,誘電緩和情報の面的分布を画像化するアルゴリズムに関する研究を行う。
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