RC構造物中の鉄筋の腐食診断には電気化学的手法が広く用いられているが,鉄筋の状態に関する測定値がコンクリートの影響(含水状態,劣化状態等)を受けて変動することから腐食実態と測定値の相関を明確に解釈することが困難であった。 本研究では,実構造物を対象とした電気化学的測定の変動要因となるコンクリートの影響を定量的に明らかにするため,コンクリートを構成する各種材料が電荷挙動に及ぼす影響を把握しモデルを構築することを目的とする。 今年度は,系をキャパシタと見なした時の導電電荷寄与分である複素電気容量虚数部(誘電損失)と,導体と見なした時の感応電荷寄与分である複素コンダクタンス虚数部に着目して検討を行った。試験体は導体(鉄,亜鉛めっき鋼,ステンレス)と絶縁体(ポリエチレン)を埋設したものと,材齢を変えることで体積当たりの水とセメント硬化体の割合を変化させたものを対象とした。 埋設材料の種類で比較した場合,電気容量虚数部はすべての結果においてほぼ同じ周波数域で極大値を取るが,極大値自体の大きさにはばらつきがあり材料種類の傾向は見られない結果となった。これは水中の導電電荷の影響が大きく埋設材料の寄与分が小さいためと考えられる。またコンダクタンス虚数部については,導体のピーク周波数は10^3Hz近傍,絶縁体のみ10^2.5Hzとなった。 モルタル材齢の影響については,若材齢ほど高いピークを示す。これは,若材齢であるほど体積当たりの含水率が高く測定系内の導電電荷量が大きくなるためと考えられる。複素コンダクタンス虚数部については感応電荷の寄与分に関する指標であるが,若材齢ほど大きい値をとるのはセメントの水和が進行するに従い感応電荷の可動性が減少するためと考えられる。 上記に示す検討により,各電荷の損失分を指標を用いて把握することで,ばらつきの要因である水や埋設材料の影響を補正できる可能性を示した。
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