本研究では、高級技術のなかでも国家造営である寺院と宮殿の技術を発掘遺構をもとに検討し、相互の技術的な関連性を明らかとし、それぞれの独自性の検証を目的とした。さらに東アジアの発掘遺構・現存遺構の事例と日本の事例を比較することで、技術伝播の状況を探り、東アジアにおける日本の古代建築の特質を明らかとすることを目指した。 寺院建築に関しては金堂を中心に検討し、国庁と比較することで、金堂・正殿ともに桁行規模によって格差をつけており、古代における建築の表現方法、設計方法の一端を明らかにすることができた(海野2017)。また武蔵国のように巨大な国庁正殿を持つ国では国分寺金堂も大きく、地域性も窺われた。 東アジアの建築技術に関しては、山西省・陝西省・河北省を中心とする古建築を調査し、奈良時代の建築と唐代~遼・金代の建築を比較し、組物と梁・桁・隅木の関係性について検討した。その結果、野屋根の発生以前の東アジア建築を概観できた。また韓国扶余弥勒寺および王宮里を訪れ、伽藍配置から朝鮮半島と7世紀以前の日本の関係を検討した。なお百済にみられる宮殿と寺院を並立する概念は7世紀の日本にも多く見られ、8世紀の郡庁と郡寺の並立につながりうるもので、新たな研究の糸口をつかんだ。 さらに同時期に行っていた復元に関する研究、挑戦的萌芽研究との連携が可能となり、古代建築の基本的な構造と復元の関係を述べるとともに、書籍『古建築を復元する―過去と現在の架け橋―』(吉川弘文館、2017年)を刊行し、古代歴史文化賞優秀賞を受賞した。なお、本研究の成果の一部を含む書籍が別途、刊行予定である。
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