研究課題/領域番号 |
26709049
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上田 恭介 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40507901)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体材料 / 材料加工・処理 / 非晶質リン酸カルシウム / コーティング / 抗菌性 / 骨形成タンパク質 / 薬剤徐放 / 硬組織適合性 |
研究実績の概要 |
非晶質リン酸カルシウムの生体吸収性に着目し、(1)埋入手術時にはAgやZnイオンによる抗菌性を発現し、(2)埋入初期段階では添加元素や骨形成タンパク質の徐放による新生骨形成を促進し、(3)最終的にはコーティング膜自身は溶解し、チタンインプラントと自家骨が直接結合する、というインプラント表面を構築することを目的としている。 予備実験として、Ag含有リン酸カルシウム焼結体の抗菌性評価方法を確立した。大腸菌を用い、(イ)焼結体を細菌含有溶液中に浸漬し、生菌数を測定するシェーク法および(ロ)細菌含有寒天培地中に焼結体を包埋し、寒天培地上の細菌発育阻止領域(ハロー)を測定するハロー法により評価した。各方法に及ぼす菌液量、濃度、培養方法等を検討することで、最適な評価条件を見出すことができた。 コーティング膜への抗菌性付与に関してはAgに着目し、RFマグネトロンスパッタリング法によりAg添加非晶質リン酸カルシウムコーティング膜の作製および抗菌性の評価を行った。スパッタリング用ターゲットとして、Ag含有β型リン酸三カルシウム高密度焼結体を用い、鏡面研磨工業用純チタンおよびブラスト処理チタン基板上にコーティング膜を作製した。 コーティング膜中のAg量はターゲット組成に比べて小さくなるものの、Ag含有非晶質リン酸カルシウムコーティング膜を作製することができた。得られたコーティング膜は膜厚0.5μm、基板とよく密着した緻密かつ均一なコーティング膜であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は抗菌性に着目し、大腸菌を用いた抗菌性評価方法を確立することができた。細菌等の生物試料は扱い方により結果に大きな誤差が生じるため、正しい手技の獲得は、今後の評価に大いに役立つと予想している。評価の上で重要なパラメータとなる評価方法(シェーク法、ハロー法)、菌液量、菌濃度、培養方法について最適化することができた。 Ag添加リン酸カルシウム焼結体においては、同じAg添加量であっても、Agが固溶したβ型リン酸三カルシウムの方が、金属Agが分散したハイドロキシアパタイトよりも高い抗菌性を示すことを明らかにした。構成相がAgの溶出挙動に影響を及ぼし、その結果抗菌性も変化することを見出したことは、当初の計画以上の進展と評価できる。 Ag添加非晶質リン酸カルシウムコーティング膜に関しては、実験開始当初、Agがほとんどコーティング膜に含有されなかったが、成膜条件を最適化することで、Ag含有非晶質リン酸カルシウムコーティング膜を作製することができた。
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今後の研究の推進方策 |
Ag添加非晶質リン酸カルシウムコーティング膜の抗菌性および溶解性評価を行う。溶解性評価は、擬似体液および細胞培養液中にコーティング膜を浸漬させ、コーティング膜の構成元素であるCa、Pおよび添加元素であるAgの溶解量をICP法により評価する。 非晶質リン酸カルシウムコーティングによる骨形成能向上にも着手し、(A)骨形成能向上元素(Zn, Si, Mg)添加および(B)骨形成能向上タンパク質(BMP)との複合化手法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗菌性を示すAg添加コーティング膜の作製にあたり、当初予定していた濃度のAgを添加することが困難であり、想定するAg濃度を達成するために時間を要してしまった。その代わり、Ag含有リン酸カルシウム焼結体の抗菌性評価方法の確立および評価を行うことはできた。コーティング膜に関しては、抗菌性評価方法を確立するまでとなってしまい、コーティング膜の抗菌性とAg添加量の関係を明らかにすることができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度の予定であったコーティング膜中のAg量と抗菌性の関係を明らかにする。次年度使用額は、評価のための消耗品として使用予定である。
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