研究課題/領域番号 |
26709051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高際 良樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (90549594)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 / 廃熱利用 / 物性実験 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、熱電発電モジュールの性能を左右させる材料サイドに課題に焦点を当て、性能とコスト面との両立を目指す。電子構造から高い熱電特性を得る合金系を選定し、組成比の調整や元素置換・キャリアドーピングにより、フェルミ準位近傍の電子構造・バンド構造を制御、即ち、バンドエンジニアリングにより、実用材料になり得る材料の探索を行う。研究対象物質は、Zintl化合物、狭ギャップ金属間化合物、鉛カルコゲナイド、ボロン化合物に着目した。初年度の主要成果として下記の3つが挙げられる。 1)ボロン化合物:新規ボロン化合物としてTi10Ru19B8に着目した。この化合物は、フェルミ準位近傍に深い擬ギャップを形成する。結晶構造は、三角形・四角形・五角形・六角形からなるボロンネットワーク中に、Ti及びRuが配列している。また、遷移金属を一定濃度ボロンネットワークに内包することができ、擬ギャップ中の電子構造を制御できる可能性があることが、第一原理計算の結果から示唆された。作製した試料の電気出力因子は、973Kにて1.4mW/m-K2を越える大きな値を示した。この化合物の融点は1673Kを越えるので、高温領域で更に電気出力因子は増加する可能性がある。 2)鉛カルコゲナイド:ドーピングによりバンド構造を制御したPbSeにおいて、無次元熱電性能指数zTが1を超える材料の創製に成功している。材料の輸送特性を制御する上で、移動度の理解が重要である。n型ドーパントとして、Al, Ga, In, Cl, Brに着目し、実験データを基として、第一原理計算、モデル計算を併用し、ドーパントによる不規則散乱の大きさの違いで移動度の変化が説明できることを明らかにした。 3)Zintl化合物:EuZn2Sb2に着目し、Euの組成を変化させることにより、非化学量論組成が熱電物性に与える影響を明らかにし、zTの改善に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、研究対象物質として、①Zintl化合物、②鉛カルコゲナイド、③ボロン化合物に着目し、それぞれの化合物において以下の成果を上げることができた。①に関しては、合金系の選定をいくつか行い、初年度はEuZn2Sb2における熱電物性の非化学量論組成の影響を明らかにした。一方、②に関しては、n型の鉛カルコゲナイドにおける、ドーパントが移動度に及ぼす影響を実験と第一原理計算、モデル計算を併用し議論した。ドーパントによる不規則散乱の大きさで移動度の変化が理解できることを明らかにした。③に関しては、新規材料としてTi10Ru19B8及び結晶構造内のボロンネットワーク内に遷移金属を内包したTi9TM2Ru18B8(TM: Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu)の熱電特性を明らかにし、新規高温熱電材料として有望であることを明らかにした。また、β菱面体晶ボロンにおけるキャリアドープによる熱電性能向上にも成功した。現在、別のドーパントを選定し、性能向上に資するかどうかの検討を始めている。また、新規狭バンドギャップ金属間化合物として、MoSi2型のAl-Re-Siに着目し、電子構造・バンド計算、熱電物性測定を行い、特性を評価した。今後、更なる熱電パラメタのチューニングにより、性能向上が見込まれる。 初年度は数多くの材料に着目し、その中で、次年度の研究に繋がる材料を創製できた。一方で、物性の起源解明の為の、フォノン計算及び電子密度分布解析に関しては充分に行われたとは言い難い。以上の観点から、初年度における「研究の目的」の達成度は、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果で得た萌芽的な材料についてのキャラクタリゼーションを進める。初年度は、ボロン化合物において新規材料の創製と既存材料の特性改善に成功した。更なる性能向上の為の研究を次年度でも遂行する。一方、新規狭ギャップ金属間化合物としてMoSi2型のAl-Re-Siに関する物性評価を行い、今後、更なる特性のチューニングにより、無次元熱電性能指数の向上が見込まれる。本年度は多様な合金系に着目し、新規材料及び既存材料の特性向上に成功してきたが、本研究課題の目標である、性能とコストの両面を達成するためには、元素系、ドーパントの種類にも今後注意を払う必要である。性能とコストという面では、Zintl化合物が有力であり、次年度以降も精力的に研究を行う。また、Sb系Zintl化合物は高い熱電特性を示すが、n型材料の創製には至っていない。モジュール設計の観点から、n型材料の創製も課題である。また新たに、シリサイド化合物にも着目し、性能向上の為の設計指針を構築すべく、第一原理計算及び基礎実験を開始させる。 本年度は、放射光施設SPring-8での実験を遂行できていないため、MEM/Rietveld解析による電子密度分布解析が行えていない。例えば、本年度新たに新規材料として見出した、Ti10Ru19B8化合物やAl-Re-Si化合物における、結合性を評価することは、結晶構造と電子構造、物性との関連を明らかにするために有用であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度作製した試料の原料材料費が想定よりも下回った為。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度導入予定のボールミル装置のタングステンカーバイド製容器とボール購入費用、及び、原料材料の購入に充てる予定である。
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