研究課題/領域番号 |
26709052
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
多賀谷 基博 長岡技術科学大学, その他部局等, 准教授 (20621593)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノバイオ材料 / 生体親和性材料 / ナノバイオセラミックス / 水酸アパタイト / メソ多孔質材料 / バイオイメージング / 生体無機イオン改質 / 無機有機ナノハイブリッド構造物 |
研究実績の概要 |
従来の診断技術で検出された腫瘍は外科手術によって完全に摘出できない場合が多く、結果として再発・転移する。そのため、増殖・転移が非常に遅い超早期段階の腫瘍を細胞レベルで非侵襲に検出する診断、及び、超微小腫瘍部のみを完全に治療する技術の開発が急務である。 本研究では、蛍光内視鏡を用いて生体内のがん細胞を非侵襲・高感度に検出して死滅させる目的で、生体親和性と発光特性に優れたメソ多孔質水酸アパタイト (HAp) 粒子を新規に創製した。 平成27年度では、細胞レベルで超早期の腫瘍サイズに相当する細胞集合体を可視化した。具体的に、生体毒性の低いユウロピウム(III)イオンまたは有機Eu(III)錯体を発光種として、両親媒性分子であるリン脂質を介在させて、発光性メソ多孔質HAp粒子を合成した。リン脂質分子集合体を鋳型として有機Eu(III)錯体を添加した場合において、生体液の無機イオンから穏和な環境で核を効率的に形成でき、高温・高圧環境と部分冷却の組み合わせによる自然対流によって粒成長を促進し、規則HApナノ構造粒子が創製できることを世界で初めて見出した。リン脂質分子集合体が「鋳型」と「発光種取込」の2機能の役割を担っていることにより実現した。合成したEu(III)含有HApメソ構造体粒子は、粒径50~150 nmであり、高い量子収率で赤色発光を呈した。次いで、粒子表面へアミノシランと葉酸誘導体を化学修飾固定し、リン酸緩衝溶液中での分散と発光を確認した。そして、リアルタイム顕微鏡観察によって、2種類のがん細胞 (ヒト骨肉腫MG-63細胞、ヒト子宮頸がんHela細胞) へ選択的に取込される過程を確認し、毒性なく成長することを確認した。さらに、蛍光顕微鏡観察によって細胞イメージングを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成27年度は、前年度合成したEu(III)含有した発光性メソ多孔質HAp粒子について、量子収率の向上、及び、粒子表面修飾による細胞取込特性と可視化の解明を達成目標としていた。 実際、リン脂質分子集合体を鋳型として有機Eu(III)錯体を添加した場合、規則HApナノ構造が形成される現象を世界で初めて見出した。ナノ構造形成によりEu(III)イオンが均一分散して量子収率が向上した。有機錯体のEu(III)イオンは、配位子とリン脂質分子によって、最適な空間配置が実現し、発光特性の改善が実現した。次いで、粒子表面へアミノシランと葉酸誘導体を化学修飾固定し、2種類のがん細胞 (ヒト骨肉腫MG-63細胞、ヒト子宮頸がんHela細胞) へ選択的に取込される過程を確認し、蛍光顕微鏡によって細胞イメージングを実現した。 本結果は、予定通りの順調な成果であり、申請者および申請者の指導学生が一丸となって研究を推進したことにも由来する。生体に類似な穏和な条件下で光機能バイオセラミックスを合成し、高次ナノ構造形成と表面・界面制御によって、特定の細胞を可視化する材料として機能させた点は、新規性と進歩性共に評価される。研究成果は、特許出願をし、Crystal Growth & Design (アメリカ化学会誌) やRSC Advances (イギリス化学会誌) などの雑誌へ掲載されるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
日本国は、世界でも類をみない高齢社会を迎えている。国民が健康で安心して暮らせる社会を実現すべく研究を推進してきた。本研究では、ナノテクノロジーが関わるバイオ・医療分野において、細胞機能へ効果的に働きかける革新材料を開発した。具体的には、生体に類似な穏和な条件で高次構造形成技術と表面・界面制御技術の融和によって生体親和性と発光特性に優れたメソ多孔質HAp粒子を創製し、バイオイメージング特性を見出した。 平成28年度 (最終年度) においては、抗がん剤をメソ多孔質HAp粒子のメソ細孔表面へ担持し、メソ細孔口を光応答性粒子により封止複合化し、光によって細孔口を開いて抗がん剤を放出する技術を確立する。つまり、細胞レベルで非侵襲・高感度に光検出する診断技術へ貢献し (平成27年度)、腫瘍部のみを完全に治療する基礎原理を見出す (平成28年度) ことが本課題の目標である。 以上により、生体親和性に優れたHApとメソ細孔構造 (骨格と表面) を協奏し、超早期がんの革新的非侵襲診断・治療技術へと展開する。さらに、研究を進化・深化させ、バイオ・医療分野 (特に、ナノバイオニクス分野) へ貢献し得る材料創製を実施し、“日本国の超少子高齢社会をより良く豊かにする材料技術”の基盤創出に向けて研究推進する方策である。
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