平成28年度は、平成27年度に開発したマグネシウム合金としては極めて優れた常温加工性を示すMg-Zn-Zr-Ca(ZKX)合金をとして、Znの濃度を2%から6%の範囲で変化させることで生ずる組織変化が室温における成形性と強度に及ぼす影響について検討を行い、高強度高成形性時効析出型マグネシウム合金板材の開発に取り組んだ。 圧延直後の試料は母相の底面が板面法線方向に強く配向し、配向度もZn添加量によらず同程度であった。溶体化処理(T4処理)によって底面の配向度は低下する傾向にあるが、特にZn濃度の低い試料ほど配向度は大きく低下する傾向にあった。特に、ZKX300合金でエリクセン値にして7.9mm、ZKX200合金で7.8mmのアルミニウム合金並みの常温加工性示すことが分かった。 一方、溶体化処理後の時効処理(T6処理)による強度増加はZKX300合金が最も低かった。Zn濃度が3%以上の試料では析出相としてMgZn2相が析出するため、析出物の数密度が最も低いZKX300合金の強度が最も低く、150MPa程度であった。Zn濃度が2%の試料では、析出相がMgZn2相から直径数nm程度の単原子層規則G.P.ゾーンに変化し、数密度が大きく上昇するため、ZKX300合金に比べてより大きな析出強化量が得られ、ZKX200合金の0.2%耐力は210MPa、引張強さは250MPa程度であった。 以上の通り、合金組成を希薄化することにより、アルミニウム合金並みの優れた室温成形性と200MPa以上の0.2%耐力を付与させることができた。開発合金の特性は、自動車のボディパネルとして使用する際に要求される力学特性を有するだけでなく、ピーク時効に至るまでの時間も1時間も要さないため、焼付硬化型合金として使える可能性がある。
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