研究課題
アモルファスシリコン(a-Si)は、これまで、蒸着やシランを用いた気相成長によって作製されてきたが、ガラスとは異なり、液体から直接バルク状のa-Siを作ることは不可能であった。近年、過冷却状態に着目した理論提案がなされ、過冷却液体Siの急冷によるバルクa-Si作製の可能性が開けてきた。申請者らは、これまで静電浮遊法を用いた高温融体の研究を進めてきた。静電浮遊法は、静電気を使って「静かに」試料を浮遊させるので、試料への擾乱を最小限に抑えることができる。さらに、試料容器が不要なので、容器に起因する結晶核が発生せず、深い過冷却状態を実現する最良の環境を提供する。静電浮遊法を用いてSiの過冷却実験を行ったところ、Siの融点下およそ300Kもの大過冷却状態を実現し、過冷却状態における密度温度依存性の異常と粘性の増加傾向の変化を見出した。これを手掛かりにして、過冷却液体Siの急冷凍結によりa-Siを作製することが本研究の目的である。本年度は、平成26年度に立ち上げた静電浮遊法を用いた急冷装置を用いて、過冷却液体Siの急冷凍結実験を繰り返した。特に最適な急冷方法の探索に注力した結果、2本の金属ロッドで試料を勢いよく挟み込み薄片を得るピストンアンビル法が適していることが判明した。この方法を用いて急冷した試料を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、a-Siと思しき局所構造が発見された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、過冷却液体Siの急冷凍結によりバルクa-Siを得ることを目的としている。平成27年度の研究において、急冷試料の一部にa-Siと思しき局所構造が観測されており、順調に研究が進捗していると考えられる。
研究がおおむね順調に進展していると考えられることから、現在の方向で研究を進め、a-Siが液体急冷法により作製できることを明確にしたい。一方で、得られた試料の一部に酸化傾向が見られる。酸化をどのように抑制するかが今後の課題である。また、現状ではa-Siの生成がミクロンサイズの局所的なものにとどまっており、その物性評価が困難である。物性測定が可能なセンチメートルサイズの試料が得られるように、実験方法の改善を行う。液体急冷法を用いたa-Siの作製は、これまで成功例が報告されていない。今回、過冷却液体を用いることにより、a-Siが生成した物理的な理由を解明することも重要である。海外の共同研究者と連携し、第一原理計算を用いて過冷却液体Siの物性解明にも取り組む。
平成26年度の研究では、本研究の目的である液体急冷法を用いたa-Si作製に成功した。しかし、得られたa-siはミクロンサイズにとどまっており、その物性評価が困難である。物性評価が可能なバルクa-Siを作製する必要がある。急冷方法の改善を検討する必要が生じたために、次年度使用額が生じた。
上述のとおり、急冷方法の改善を検討した結果、ガス浮遊法を用いた急冷方法が適しているという結論に至った。平成28年度は、繰り越した基金を用いてガス浮遊法を用いた急冷装置を作製する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Physical Review Letters
巻: 114 ページ: 177401
10.1103/PhysRevLett.114.177401