フローサイトメーター等の従来の細胞分離法では、表面抗原をマーカーとして細胞を分離する。一方、がん組織や幹細胞培養系などのヘテロな細胞集団の中にはマーカーの定まっていない細胞も多く、細胞の機能を細胞毎に個別に解析して細胞を分離する手法の開発が期待されている。申請者の杉浦らはこれまでに、光で分解するゲルを簡便に調製できる光開裂型架橋剤を独自に合成し、ゲル内やゲル上での細胞マニピュレーションに応用してきた。本研究ではこの光分解性ゲルを利用して、正常細胞とがん細胞の混合培養系から三次元培養下での形態や、浸潤能、薬剤耐性といった細胞機能を指標として悪性度の高いがん細胞を単離する新手法を開発した。 本年度は細胞分離性能の定量的評価と蛍光イメージング法と組み合わせた細胞分離を推進した。細胞分離効率に関しては、光分解性ゲルへの包埋プロトコルと光照射、ピペッティング回収プロトコルを最適化し、好適な条件においては90%以上の成功率で目的細胞のみを単離するプロセスを確立した。蛍光イメージングに基づく細胞分離に関しては、赤色蛍光タンパク質遺伝子を導入した乳癌細胞(MCF7-RFP)をモデル細胞として使用し、蛍光陽性率の高い細胞を蛍光イメージングに基づいて識別し、光照射に基づいて単離する手法を確立した。この手法を確立したことで、将来的には本研究で開発した細胞分離手法が、表面マーカーや細胞生存率を指標として、特定の細胞を分離する用途に利用できると期待される。
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