研究課題/領域番号 |
26709073
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
外山 健 東北大学, 金属材料研究所, 講師 (50510129)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 拡散 / 3次元アトムプローブ / 原子炉圧力容器鋼 / 中性子照射 / 電子線照射 |
研究実績の概要 |
不純物・溶質原子の拡散係数や固溶限濃度は、原子炉圧力容器(RPV)鋼の脆化主因である微小析出物の形成を記述する上で欠かせない物理量であり、脆化予測に直結する重要パラメータである(実際、現行の脆化予測式にも、鉄中の銅の拡散係数および固溶限濃度が含まれている)。しかし、例えば鉄中の銅の拡散係数に関しては、従来は700℃程度の高温領域に限って実験データが得られているのみであった。そこで、本研究では、3D-APを用いることで、RPV鋼中の不純物・溶質原子の拡散係数や固溶限濃度をより原子炉使用温度(RPVでは300℃)に近い温度で測定することを目的とする。さらに、拡散に対する照射促進効果も調べる。 平成27年度は、前年度に製作した高温電子線照射チェンバーを用いて、JAEA高崎研究所1号加速器にて550℃および700℃で銅-鉄拡散対試料を電子線照射した。拡散現象で重要な試料温度の計測および制御には特に注意を払った。照射済み試料を3D-APで分析したところ、鉄母材への銅の拡散が観察された。熱時効試料と比較したところ、照射試料では拡散長が顕著に増加することが明らかになった。これにより、照射促進拡散を定量的に評価することができた。 また、ベルギーBR2および米国HFIRにて、銅・ニッケル・マンガン・シリコンを拡散元素とし、鉄およびA533B鋼を母材とした種々の拡散対試料を中性子照射した。平成28年度に試料輸送と照射後実験を行い、中性子照射による照射促進拡散を調べる予定である。 照射材以外の試料では、粒界拡散を調べた。銅-A533B鋼拡散対における粒界を選択的に3D-APで観察し、粒界拡散を定量的に評価した。A533B鋼における銅の拡散では、粒界拡散はマトリックス拡散よりも拡散定数が約2桁程度大きいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、前年度に製作した照射チェンバーを用いて高温電子線照射実験を行うことができた。また中性子照射も予定通りのスケジュールで行うことができた。進捗はおおむね順調と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き高温電子線照射を行い、照射誘起拡散を評価する。量子科学研究開発機構高崎研究所1号加速器に加え、京都大学原子炉実験所ライナック施設も利用させていただく。また、中性子照射試料についても実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、拡散源金属(銅、ニッケル、クロムなど)の蒸着を外部業者に依頼する予定であった。しかし、3kVイオン銃(平成27年度に購入)を既存の蒸着装置に導入したことにより、既存の蒸着装置でも十分な品質の蒸着を行えるようになった。そのため、外部業者に委託する必要がなくなった。これにより、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、主に照射済み試料の3D-AP測定および陽電子消滅測定に必要なモジュールや消耗品に充てる予定である。特に試料が放射化している中性子照射済み試料の測定では、消耗品の交換頻度が高くなる。また、拡散現象に対する照射効果を定量的に検討するためには、反応速度論などによる数値計算も必要となる。それに必要なワークステーションなども購入する。
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