今年度は当初の予定を1年延長した4年目である。前年度に引き続き、ペロブスカイト太陽電池の変換効率向上とタンデム構造の試作を行った。ペロブスカイト太陽電池の変換効率向上については、二元同時蒸着法のプロセスの改善を進め、安定して結晶性の良いペロブスカイト膜の作製ができる条件を見出した。その結果、疑似太陽光下での光導電率が4.97×10-4 S/cm(光感度は104以上)を有するペロブスカイト膜の作製が可能となった。この膜は時間分解フォトルミネッセンス測定によるキャリアライフタイムが99.7 nsと大きいことからも良質なペロブスカイト膜が作製できたことが明らかとなった。単膜レベルでは良質なペロブスカイト膜を得ることに成功したが、太陽電池の変換効率は4%程度と低い値にとどまった。その原因は、ペロブスカイト膜の結晶性が基板に大きく影響を受けるためである。ガラス基板上では結晶性の良い膜が得られるが、太陽電池に用いるガラス/透明導電膜/電子輸送層基板上では結晶性が低下する。太陽電池特性を改善するためには、異なる下地材料に対して製膜の最適化が必要である。 また、n型微結晶シリコン/p型Cu2O積層構造がタンデム太陽電池のトンネル接合層として有望であることが明らになっているため、タンデム太陽電池の形成に向け、p型Cu2O上へのペロブスカイト太陽電池の形成を検討した。その結果、ペロブスカイト膜蒸着後のアニールにより、ペロブスカイト膜が急速に分解することが明らかとなった。なお、p型Cu2Oを大気中で熱処理してから同様の実験を行った場合、ペロブスカイト膜の分解速度が低下することが見出されている。したがって、n型微結晶シリコン/p型Cu2O積層構造をトンネル接合層として用いるためには、p型Cu2Oの表面処理を制御する必要があることが明らかとなった。
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