研究課題/領域番号 |
26710001
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松本 正幸 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50577864)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ドーパミンニューロン / 行動抑制 |
研究実績の概要 |
ドーパミンニューロンは報酬シグナルを伝達する神経系として注目されているが、その異常は認知機能障害や運動機能障害など、必ずしも報酬機能とは関係のない障害も生じる。本研究では、「行動抑制(response inhibition)」と呼ばれる認知機能に注目し、行動抑制を必要とする認知課題をおこなっているサルの黒質緻密部/腹側被蓋野からドーパミンニューロンの神経活動を記録してきた。その結果、黒質緻密部背外側部にあるドーパミンニューロンが行動抑制に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにした。これらのドーパミンニューロンは、行動を抑制することをサルに支持する刺激が呈示されると強く興奮した。黒質緻密部腹内側部や腹側被蓋野にあるドーパミンニューロンではこのような神経シグナルは確認できなかった。また、黒質緻密部背外側部からドーパミン投射を受け取る背側線条体からも神経活動を記録したところ、この領域にある線条体ニューロンも行動抑制に関わる神経シグナルを伝達することが明らかになった。さらに、背側線条体へのドーパミン入力と行動抑制の能力との因果関係を調べる目的で、行動抑制課題をおこなっているサルの背側線条体にドーパミン拮抗薬を注入すると、サルの行動抑制の能力が低下することも明らかになった。これまでに2頭のサルで同様の結果を得て、データの再現性も確認できた。以上の結果から、ドーパミンニューロン-背側線条体神経回路は行動抑制に重要な役割を果たすと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究の中で、「行動抑制」と呼ばれる認知機能の神経基盤として前頭前野が大きな注目を集めていた。一方、本研究では、報酬系として知られるドーパミン神経系が行動抑制に重要な役割を果たしていることを世界に先駆けて発見した。すでに論文執筆に必要な行動学的、電気生理学的、薬理学的データを得ており、本プロジェクトは順調に進呈していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上述した結果を論文としてまとめる。また、光遺伝学を用いてドーパミンニューロン選択的に神経活動を活性化させることによって動物の行動抑制の能力が向上するのかを解析し、ドーパミン信号と行動抑制との因果関係をさらに検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、行動学実験、電気生理学実験、薬理学実験、そして光遺伝学実験によってドーパミンニューロンの行動抑制に対する役割を明らかにしようとしている。このうち、行動学実験、電気生理学実験、薬理学実験についてはその手法が既に確立されており、何らかのデータが得られると予想されたことから、これらの実験を集中的におこなったため、光遺伝学実験については次年度に集中しておこなうことになり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
行動学実験、電気生理学実験、薬理学実験で十分なデータが得られたことから、次年度に集中して光遺伝学実験をおこなう。光遺伝学実験では、光ファイバー電極や組織解析用試薬、複数の実験動物など、相当額の消耗品費が必要になり、そのための支出に充てる。
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