研究課題/領域番号 |
26710006
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
定家 真人 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (70415173)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 癌 / ゲノム / トランスレーショナルリサーチ / 老化 |
研究実績の概要 |
がん細胞の増殖には、染色体末端を保護するテロメアの維持が不可欠である。本研究では、テロメア維持機構の中でも、テロメラーゼに依存しないテロメア維持機構(ALT機構と呼ばれる)を標的としたがん治療法の開発を行う。このテロメア維持機構は、全臨床がん症例の10%、特に肉腫の50%にのぼる症例で活性化されているものの、これまで治療標的として注目されてこなかった。本研究は、肉腫を中心とした、治療薬の開発が遅れている難治性がんの治療法の確立に貢献する。具体的な研究目的は以下の通りである。 1.テロメラーゼ非依存的なテロメア維持に必要な新規分子の同定 2.新規・既知のALT関連分子阻害法の開発と、ALT依存性がん細胞の選択的増殖抑制機構の解明 本年度の研究実施計画に従い、ALTがん細胞とテロメラーゼ発現がん細胞を用いて、CRISPR-Cas9システムを利用した網羅的なガイドRNA(gRNA)スクリーニングを行い、ALT細胞の増殖に特異的に必要とされる遺伝子の同定を目指したが、同目的の化合物スクリーニングでヒットが取得できたため、その化合物によるALT細胞増殖抑制メカニズムの解明を進めた。この化合物スクリーニングの結果から、ALT細胞とテロメラーゼ発現細胞の単純比較では、テロメア維持機構以外の遺伝的背景の違いが偽陽性ヒットの出現の可能性を高めてしまうことが示唆された。従って、gRNAスクリーニングは、遺伝的背景の違いを可能な限り無くした方法に改良し解析を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究で実施を計画していた、ALTがん細胞とテロメラーゼ発現がん細胞を用いた、CRISPR-Cas9システムを利用した網羅的なgRNAのスクリーニングは、後述するように(「今後の推進方策」)、その方法の改善が必要であると考えられた。本年度は、このgRNAスクリーニングと並行して、ALTがん細胞とテロメラーゼ発現がん細胞を用いた、ALT細胞特異的な増殖阻害剤の化合物スクリーニングを進めた。この化合物スクリーニングから得られた一つの有力なヒット化合物について、増殖阻害の細胞株特異性を調べたところ、少なくとも、骨肉腫由来のALT細胞は、本化合物に高い感受性を示すことがわかった。本化合物は、細胞内で代謝されて、DNAの塩基部分と共有結合しうる活性型に変化し、さらに、本化合物が付加されたDNAは結果としてDNA二重鎖切断(double strand break: DSB)を引き起こすと考えられている。そこで、本化合物で処理したALT細胞の核内の DNA-DSBを検出するために、抗gamma-H2AX(γ-H2AX)抗体を用いた間接蛍光抗体染色を行ったところ、本化合物で処理したALT細胞では、核内γ-H2AXのシグナルが増加することがわかった。また、本化合物が示すALT細胞の増殖阻害活性は、本化合物を細胞内で代謝する酵素の阻害剤を加えることにより軽減されることがわかった。このように、gRNAスクリーニングについては、その方策に改善の必要性があることが判明したものの、化合物スクリーニングで一定の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、化合物スクリーニングで得られたALT細胞増殖阻害剤が、どの酵素によって代謝されるのかを、遺伝学的手法により探索する。また、ALT細胞でDNA損傷が引き起こされる染色体上の位置を、抗γ-H2AX抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験を実施して明らかにする。ALTがん細胞は、テロメラーゼ発現がん細胞や正常細胞とは異なり、ATR-Xと呼ばれる蛋白質の機能不全を持つことが知られているので、本化合物によるALT細胞の増殖抑制が、ALT細胞でのATR-X遺伝子の再発現により軽減されるかどうか調べる。このような解析により、骨肉腫由来のALT細胞が、なぜ本化合物に対して高い感受性を持つのかを明らかにする。 これまでに進めてきたCRISPR-Cas9システムを利用した網羅的なgRNAスクリーニングは、異なる腫瘍由来のALTがん細胞株とテロメラーゼ発現がん細胞株の比較に基づくものであった。両細胞株の間では、テロメア維持機構の違い以外にも、遺伝学的な差異がある可能性があり、たとえALTがん細胞の増殖を特異的に抑えるgRNAが得られたとしても、それが偽陽性ヒットである可能性を排除できない。そこで、ALTにおけるATR-Xの機能不全に着目し、ATR-X遺伝子変異を持つ細胞株と持たない細胞株(同じ細胞株由来の)を比較することで、ATR-X変異を持つ細胞の増殖を特異的に阻害するgRNAを見出すことを目指して、改めてgRNAのスクリーニングを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に、遺伝学的スクリーニングに用いる細胞の購入予定があり、これにかかる物品費が他のものに比べて大きいため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、遺伝学的スクリーニングに用いる細胞の購入に使用する。
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