研究課題
前年度までに構築した高速糖鎖バリエーション定量化技術Erexim (Energy resolved oxonium ion monitoring)法を用いて、ヒト血清中Prostate specific antigen (KLK3, PSA)上糖鎖の一斉糖鎖構造決定・定量解析を実施した。測定検体には前立腺肥大症(BPH)患者、前立腺癌患者においてそれぞれPSA陰性群、および陽性群を用いた。PSA免疫捕捉チップとErexim質量分析により、二分岐~四分岐糖鎖から成る合計72種類の異なる糖鎖構造が検出された。さらに各糖鎖構造の存在比率を、糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に由来するフラグメントイオン(オキソニウムイオン)m/z = 138のシグナル強度をもとに相対定量化し、付加頻度(%)として算出し、上記4群間で比較解析を実施した。その結果、BPH患者特異的、前立腺癌患者特異的に有意な付加頻度増加を認める糖鎖構造がそれぞれ3種類、6種類特定された。これらは既存のPSA検査値とは無相関であることも明らかとなり、同検査による非常に高い疑陽性率を補完し、精度の高い前立腺癌診断を実現する有望なセカンドスクリーニングマーカーになりうることが示唆された。本試験の結果は、分析技術の面でも過去最高レベルの感度(血中濃度ng/mlオーダー)からの糖ペプチド糖鎖分析を可能とし、生物学的にもヒトPSA上糖鎖構造の種類を最も多く決定した意義も大きいと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
臨床検体を用いた質量分析スクリーニング試験が想定以上に順調に進み、PSA糖鎖サブタイプマーカーについてはすでに安定的な定量分析系の構築と、癌特異的糖鎖構造、良性疾患特異的糖鎖構造を複数決定するに至っている。これらの状況から、当初計画と比して当初の計画以上に進展している。
PSA糖鎖サブタイプマーカーについては、27年度に決定した癌特異的、良性疾患特異的糖鎖構造、合計9種類に対してさらに症例数を増やした検証試験を実施する。さらに体外診断薬としての実用化も視野に入れ、質量分析を用いないイムノアッセイやレクチンアフィニティーを利用した簡便な定量測定法の開発も試みる。CEA糖鎖サブタイプマーカーについては引き続き各種癌患者、擬陽性患者血清サンプルを用いたスクリーニング分析を継続し、組織特異的糖鎖構造、癌特異的糖鎖構造の統計学的同定を実施する。
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