研究課題
本研究は、申請者がこれまでに見出した新たなヒストン修飾変化に対する生物学的意義を解明し、その就職が形成される分子機構、更に新規ヒストンリーダー蛋白の同定を行う。申請者はこれまでに、ヒト血管内皮細胞を用いて次世代シーケンサーを用いた網羅的な解析から、血管内皮細胞活性化に寄与する転写因子、エピゲノム修飾を報告してきた(Kanki Y et al 2011 EMBO J, MCBなど)。そこで、本研究では内皮細胞にとって最も重要なシグナルであるVEGF(Vascular Endothelial Cell Growth Factor)に着目し、その下流で駆動される分子カスケード解析から、より副作用の少ない新たなエピゲノム創薬の標的を探索することを目的としている。平成26年度の研究において、HUVECs(ヒト臍帯静脈内皮細胞)にVEGF刺激を行い、0分、15分、60分後のRNA-seq、ChIP-seq、FAIRE-seqの解析から、VEGF添加後早期に誘導される転写因子群に特徴的なヒストン修飾パターンがあることが分かった。そこで、平成27年度はそれぞれのヒストン修飾酵素をノックダウンした細胞でChIP-seqを行い、各種ヒストン修飾の変化を解析した。更に、平成27年度はH3K4me3、H3K27me3修飾のみならず新規ヒストン修飾解析も行い、新たな血管新生阻害エピジェネティクス因子を見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では、平成27年度は、早期誘導遺伝子特異的なヒストン修飾に対して、H3K4me3修飾を入れる酵素であるMLL3の抗体を作成し、その複合体を解析することであった。MLL3は500kDaを超える巨大分子であるため抗体の作成には難航している。しかし、異なるアプローチによって、既にMLLを含む複合体構成タンパク質をいくつか同定した。更に、同定したH3K4me3修飾因子のノックダウンだけではなく、H3K27me3修飾を担うポリコーム複合体をノックダウンしても、血管新生が阻害されることを新たに確認しており、研究計画自体は概ね順調に進展している。
平成27年度までの結果により、血管内皮細胞が活性化されて遺伝子が転写されるために必要なエピジェネティクス因子を複数同定した。血管内皮細胞の活性化は、癌の生育や糖尿病性網膜症など、新生血管が病態に関与する疾患において、その活性化を阻害することが治療法として期待されている。そこで平成28年度には、マウスに腫瘍を植え込み、これまでに見出した因子をノックダウンし、固形腫瘍内血管新生をin vivoで評価する。また、ここまでの成果をまとめ論文投稿を予定している。更に、本課題は国際共同研究課題の基課題でもあるため、平成28年度後半よりクロマチン複合体の立体構造解析も行う予定である。
平成27年度は、in vitroの実験は予定通りほぼ終了し、in vivoの実験に取り掛かった。in vivoの実験に使用する消耗品の消費量が当初の予想よりも少なく、物品費で残高が生じた。
平成28年度において、最初に行う実験であるマウスでの血管新生、腫瘍増大を見る実験においてsiRNAを購入する代金として使用する予定である。
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Sci Rep.
巻: 6 ページ: 20027
10.1038/srep20027.