研究課題/領域番号 |
26711007
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西村 隆史 独立行政法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, チームリーダー (90568099)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インスリン / インスリン様成長因子 / 成長制御 / 代謝調節 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
本研究提案は、栄養状態に応じた個体成長と代謝調節のシグナル伝達という生体が持つ普遍的な分子基盤を理解するために、細胞生物学・生化学的手法、遺伝学的手法、および生理分泌学的手法を組み合わせて、多角的な研究を展開する。平成26年度は、成長と代謝を調節するインスリン様ペプチド(Dilp)の遺伝子発現制御機構について解析を行った。 申請者はこれまで、栄養依存的に転写レベルで制御されているDilp5遺伝子に着目し、その発現に関与する転写因子DacとEyを同定した。さらに、以下の予備結果を得ている。栄養状態に応答して局在・機能が制御されている転写因子Foxoがdilp5の発現に関わる。dilp5発現は、Foxoの上流シグナルとしてチロシンリン酸酵素型受容体Alkが機能している。Alk受容体の分泌性リガンド分子Jebは、IPCではなく神経細胞に由来する。アミノ酸シグナルに関わるTor複合体の機能は、脳グリア細胞で重要である。 本申請では、上記の予備結果を踏まえて、 栄養状態に応じた細胞内の応答変化および組織間相互作用を分子レベルで解析した。インスリン産生細胞(IPC)に働きかけるリガンドJebを産生分泌している神経細胞種を同定する目的で、Gal4系統のスクリーニングを行った。その結果、アセチルコリン陽性細胞でJebを発現抑制すると、Jebの発現と共にdilp5の発現が低下することが明らかになった。さらに、一部のアセチルコリン産生細胞は、dilp5発現細胞の周囲にあり、Jebを発現していることが免疫染色実験により確認された。次に、グリア細胞に由来し、アセチルコリン陽性細胞で産生されるJebの発現・分泌を制御しうる因子を探索した。その結果、グリア細胞で産生されるDilp6がアセチルコリン陽性細胞に作用し、Jebを介したdilp5の発現制御に関わることを明らかにした。(岡本ら、投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、栄養状態の変化に応じた成長と代謝調節の制御機構を理解することである。平成26年度は、成長と代謝を調節するインスリン様ペプチド(Dilp)の遺伝子発現制御機構について解析を行った。その結果、栄養依存的なdilp5の発現制御に関わる細胞間シグナルを同定し、さらに発現細胞の絞り込みを行った。さらに、栄養依存的に発現分泌されるDilp5が、グリア細胞でのインスリンシグナルに与える影響を検討する目的で、幼虫を基本栄養培地から飢餓培地へ移し替えて、各ステップの経時的な変化を検討している。これらの実験を通して、組織間シグナルを介した栄養依存的なdilp5の発現制御機構の全貌解明を目指している
上記の結果に加え、インスリンシグナルがどのように「成長」と「代謝」のバランス調節を行っているのかを理解する目的で、糖代謝の調節に着目した。哺乳類インスリンによる血糖値調節と同様に、ショウジョウバエDilpもしくはインスリンシグナルの異常により、体液中の糖分であるトレハロース濃度が上昇することが知られている。そこで、成長におけるトレハロース代謝調節の重要性を明らかにする目的で、トレハロースを欠損する変異体を作成した。その結果、血糖であるトレハロースを欠損しても、通常餌で飼育する限り、成長に大きな影響を及ぼさないことが明らかになった。一方で、餌中の糖分や蛋白源を減らすと、致死性や顕著な成長阻害が観察された。これらの結果は、インスリンシグナルによるトレハロース代謝調節は、栄養分といった環境変化への適応に重要な役割を果たしていることを示唆している(松田ら、2015)。
申請書に記載した「研究の目的」に対して、順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた結果をさらに発展させ、細胞間シグナルとフィードバック調節による発現調節機構を検討する。また、血糖であるトレハロースに加え、グリコーゲン代謝の重要性を明らかにする目的で、変異体の作成と解析を行う。これらの研究を通して、生物個体に備わっている恒常性維持機構の一端が明らかになると考えている。現段階で、研究計画の変更は特にない。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞間シグナルを同定するための遺伝学的スクリーニングが順調に進み、予想より少ない消耗品経費で目的が達成されたため、次年度の使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
組織間シグナルを介した栄養依存的なdilp5の発現制御機構の全貌解明を目指す目的で、免疫組織学的手法による新たな実験系に取り組む。また、分泌された体液中のdilp5を定量する目的で、LC/MSによるペプチド断片の定量化を計画している。そのため、試薬消耗品経費としての使用計画を立てている。
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備考 |
神戸新聞(2015年2月14日) ハエの幼虫 低血糖では成虫になれず http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201502/0007739318.shtml
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