研究課題/領域番号 |
26711010
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
玉田 洋介 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (50579290)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 補償光学 / ライブイメージング / 顕微鏡 / 幹細胞 / 植物 |
研究実績の概要 |
申請者は、コケ植物ヒメツリガネゴケの幹細胞化過程におけるクロマチン修飾の動態と機能を明らかにするため、クロマチン修飾検出プローブを開発し、幹細胞化過程の単一細胞核ライブイメージングを行ってきた。しかし、細胞内構造体を介した光の乱れにより像が劣化するため、既存の顕微鏡系では必要な分解能が得られないことが明らかとなった。そこで、光の乱れを補正して高分解能観察を行う天文技術である補償光学を応用した新規顕微鏡系を確立し、幹細胞化過程の精細なライブイメージングを行うことが本研究の目的である。本年度は、光学研究者である服部雅之博士、天文学研究者である早野裕博士ら、研究協力者の協力のもと、以下の研究を行った。 補償光学顕微鏡に共焦点系を配置した補償光学共焦点顕微鏡の研究開発について、ハードウェア、ソフトウェアの両面から研究を進めた。また、レンズやミラーの配置など光学系を工夫することで、補償光学系において最も重要な波面計測の感度を向上させることに成功した。蛍光ビーズを用いた実験から、感度が約25倍向上していることを確認した。さらに、これまで研究開発を行ってきた補償光学系を市販の顕微鏡土台に設置して動作させることに成功した。これにより、生体試料観察の利便性が向上し、かつ3D画像の取得などを行うことが可能となった。 平成26年度より行ってきた植物細胞の光学特性解析については、蛍光ビーズを用いた点像分布解析、計算、シミュレーションなどの研究を進め、葉緑体による光の乱れをさらに詳細に解明し、論文を執筆中である。 上記に加えて、本年度から北見工業大学の三浦則明博士を新しく研究協力者に迎え、画像相関法による波面計測法を顕微鏡観察に適用するための共同研究を開始した。画像相関法は画像の相関によって波面を計測することができるため、一般的な波面計測に必要な点光源が得られにくいライブイメージングに特に有効である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の目的の一つである補償光学共焦点顕微鏡の研究開発については、ハードウェア、ソフトウェアの両面から研究が進行中である。それに加えて、補償光学ライブイメージングに不可欠な波面計測の感度向上に成功し、さらに市販の顕微鏡土台への補償光学系の設置による利便性向上など、研究が着実に進展している。また、画像相関法の補償光学ライブイメージングへの適用を目指した三浦博士との共同研究が開始され、本計画達成のための新しい研究の進展も期待できる。以上を総合的に考慮し、本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、服部博士、早野博士ら研究協力者の協力のもと、これまで得られた結果を取りまとめ、論文として報告することを目指す。具体的には、植物細胞において光を乱す主要な要因である葉緑体がライブイメージングに与える影響について、蛍光ビーズを用いた点像分布解析、計算、シミュレーションなどによって解析した結果を一報の論文にまとめ、投稿する。また、これまで研究開発を進めてきた補償光学全視野蛍光顕微鏡の構成、および、その補償光学顕微鏡を用いて行った細胞核におけるクロマチン修飾の精細なライブイメージングの結果をまとめて、もう一報の論文を執筆し、投稿する。 平成27年度までに行ってきた研究も引き続き進める。三浦博士との共同研究のもと、画像相関法による波面計測法をライブイメージングに適用する研究も継続する。画像相関法は、一般的な波面計測に必要な点光源が得られにくいライブイメージングに特に有効であり、本計画を新しい側面から推進することができると期待している。三浦博士は、地上望遠鏡を用いた太陽観察において、画像相関による波面計測法を用いて補償光学を動作させることに成功した実績があり、共同研究に最適の人材である。また、補償光学共焦点顕微鏡の研究開発については、ハードウェア、ソフトウェアの両面から研究を継続する。さらに、低発現の蛍光タンパク質の微弱な蛍光でも補償光学が動作させられるように、補償光学系をさらに改良する。補償光学顕微鏡を用いたライブイメージングから得られた情報をもとに、レンズやミラーの種類および配置を工夫し、より光障害が小さく、より高精細に補正が行える光学系の構成を解明する。上記に加えて、新しいクロマチン修飾検出プローブの研究開発を進めるとともに、ライブイメージングの際の高頻度の励起光により幹細胞化が阻害されるという問題を解決するため、励起光の強度や頻度、培地や温度などの条件検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に計上した研究費のうち、「物品費」については、研究を効率的に推進した結果、経費を節約することができた。また、「旅費」についても、インターネットテレビ電話サービスを利用して研究打ち合わせを行うなど共同研究を効率的に推進した結果、経費を節約することができた。「人件費・謝金」は主に研究員の雇用のために計上していたが、予算規模に応じた適切な人材が見つからなかったため、研究計画を効率的に推進するため技術支援員を雇用した結果、経費に余剰が生じた。「その他」は主に論文出版費用として計上したものである。より詳細な実験の追加の必要性が生じるなどの事情により、計画よりも論文の出版が遅れているが、平成28年度中には論文出版を行う予定であり、その際の費用として使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
「物品費」は、光学用部品、分子生物学実験用試薬、植物育成・採取用器具など本計画に必要な消耗品の購入に引き続き使用する。また、画像相関法など本研究の達成に特に有効であると期待される新たな研究展開に対応するための物品・消耗品に使用する。「旅費」については、研究協力者との共同研究のための旅費や、国内・国際学会に参加するための費用に加えて、海外の研究者を招聘した国際シンポジウム開催のための招聘費として用いる。海外研究者との情報交換や共同研究を推進することによって、本計画をさらに発展させることができると期待している。「人件費・謝金」は、光学、工学、分子生物学、植物学に素養のある研究員、技術支援員を雇用するために用いる。「その他」は、主に論文出版費用として用いる。
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備考 |
オーガナイズなど ・亀井保博、高見英樹、早野裕、武田光夫、山本裕紹、服部雅之、村田隆、野中茂紀、玉田洋介、第10回NIBBバイオイメージングフォーラム 「新時代のバイオイメージングの開拓」、岡崎、2016年2月16、17日 ・玉田洋介、服部雅之、Optics & Photonics Japan 2015 シンポジウム「次世代イメージング・光利用に向けた三次元補償光学」、東京、2015年10月29日
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