申請者は、コケ植物ヒメツリガネゴケの幹細胞化過程におけるクロマチン修飾の動態と機能を明らかにするため、クロマチン修飾検出プローブを開発し、幹細胞化過程の単一細胞核ライブイメージングを行ってきた。しかし、細胞内構造体を介した光の乱れにより像が劣化するため、既存の顕微鏡系では必要な解像度が得られないことが明らかとなった。そこで、光の乱れを補正して高解像観察を行う天文技術である補償光学を応用した新規顕微鏡系を確立し、幹細胞化過程の精細なライブイメージングを行うことが本研究の目的である。 本年度は、前年度から引き続き、光学研究者である服部雅之博士、天文学研究者である早野裕博士ら、研究協力者の協力のもと、主にこれまでの研究成果の取りまとめに注力し、「生きた植物細胞を模した人工試料の構築」による補償光学顕微鏡の基礎実験に関しての論文を発表した。また、光工学研究者である三浦則明博士らと共同で、点に近い光源を必要とせず、画像より波面を計測できる画像相関法を補償光学顕微鏡に適用する研究をさらに進めた。その結果、広がった蛍光像だけでなく、明視野像を用いて画像相関法による波面計測を行い、補償光学を動作させることに成功した。波面計測の際の励起光による生細胞へのダメージや光退色が補償光学を蛍光イメージングに用いる際の課題の一つであったが、波面計測に明視野像を用いることができれば、この課題は解決できる。上記の進捗の一方で、「補償光学顕微鏡系の構築とそれを用いた生きた植物細胞のイメージング」と「生きた植物細胞の光学特性の解析」の論文化については、発表にまではいたらず、今後はそれに注力する。
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