研究実績の概要 |
アブシジン酸(ABA)の生理作用は、様々な植物種間に多数存在するPYR/PYLと呼ばれる受容体を介して、時空間的に様々な下流因子を介して引き起こされる。ストレス応答に関わるABAシグナル伝達因子の多くが明らかにされたが、ABAがどのように植物の成長を制御しているか明らかになっていない。本研究では、特定のABA受容体だけに結合し、特異的な組織に作用する新奇バイオプローブを用いて、植物の生長制御に関わるABAシグナル伝達機構の解明を目的としている。 新奇ABAアゴニスト(115C07化合物)はこれまで報告されてきたABAアゴニストのピラバクチンやキナバクチンとは異なり、種子発芽阻害や植物におけるABA応答を引き起こさず、胚軸の成長阻害のみを引き起こす。115C07による胚軸成長阻害は、代表的ABA非感受性変異株abi1では引き起こされないことから、新奇ABAアゴニストは主要ABAシグナル経路に作用していると考えられる。当初、115C07は酵素活性によりABA受容体のPYL11とPYL12を標的とすると考えられた。一方で、同時並行に行ってきたABA受容体変異株を用いた解析から、115C07化合物は生体内でPYL8を標的としている事が判明した。115C07非感受性変異株群について、PYL8変異の有無を調べたところ、9つの変異株において、予想通りにPYL8遺伝子に変異を発見することができた。また、115C07非感受性変異株の幾つかに関しては、既存のABAシグナル因子のABI3, ABI4, ABI5遺伝子にも変異を持っている事が判明した。残りの13種類の変異株については、既存のABA関連原因遺伝子座に変異を持っていないことが明らかとなった。マッピングの結果、幾つかの変異株では、2つの変異株で染色体1番の上腕の3M付近にマーカーがマップされ、既存のABAシグナル因子はこの領域に存在しないことが明らかとなっており、現在、原因遺伝子の同定を行っている最中である。他の変異株についても、ラフマッピングを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
115C07は暗所での胚軸生長を特異的に阻害する。胚軸伸長は環境シグナルに応答して、オーキシン、エチレン、ブラシノステトイド、ストリゴラクトンなどのホルモンを介して制御される。そこで、115C07によって制御されるシグナルがどのシグナル因子をターゲットにしているのかを、既存の変異株を用いて明らかにする。具体的には、光受容に関連変異株(hy1, hy2, hy5, phyb, cry)やホルモン関連の変異株(iaa18, ein2, ein3, max1, max2等)において、C115C07の暗所での胚軸成長応答を解析する。また、115C07変異株群の原因遺伝子を明らかにして、その原因遺伝子がどのように既存の因子と相互作用するのかを明らかにする。 一方で115C07の標的は、in vitroとin vivoで異なることから、115C07が代謝され、その代謝物がPYL8に対するアゴニストとして働いている可能性がある。そこで、生体内でs作用するアゴニストをHPLC-MS分析により同定を試みる。
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