研究課題/領域番号 |
26711022
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 裕昭 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70586403)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 幼生 / 進化 / 発生 / 平板動物 / 珍渦虫 / 珍無腸動物 / 左右相称動物 / 後生動物 |
研究実績の概要 |
海産無脊椎動物の幼生に関しては、その相同性や起源がほとんど解明されていない。その要因の一つとして、発生学的データの不足が挙げられ、系統学的に重要な位置を占めながら発生の報告が非常に少ない種も未だに存在する。本研究では、後生動物の幼生の進化や起源について新たな知見を得るのが目的である。また、生息場所、繁殖時期、種内の多様性、成体飼育系の確立など、発生学的研究の礎となるような基礎的な生物学的データを各動物グループに関して集積するのも目的である。本年度は主に珍渦虫と平板動物で進展があった。 珍渦虫に関しては、スウェーデンに赴き、多くの成体の採集に成功した。その採集個体の一部はゲノム解析、トランスクリプトーム解析に使用している。また、日本から珍渦虫を採取することに成功し、報告した。形態学的、および分子系統学的解析から日本の珍渦虫は世界で6種目となる新種であることも解明し、Xenoturbella japonicaとして記載した。さらに、このX. japonica、及びスウェーデンで採取した珍渦虫の研究から、これまで珍渦虫では報告のなかった構造、frontal pore(前端孔)を発見した。 平板動物に関しては、浸透圧などの環境変化に対する応答を調べた。この成果もあり、飼育系は安定して個体数が維持できている。また、下田における平板動物の推定される繁殖時期に関して、再現性が確認された。さらに、日本国内複数箇所で採集を行い、式根島や小笠原諸島と、これまで報告のなかった場所からの採取にも成功した。そして、日本8箇所に生息するハプロタイプの調査を行ったところ、一つの箇所に複数のハプロタイプが存在すること、多くの場所に生息するハプロタイプもいれば1箇所でしか見られないものもいること、本州と小笠原諸島では生息するハプロタイプの構成が異なることなどが判明した。これらの結果を投稿論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
珍渦虫に関してはスウェーデンでの多くの成体の採集に成功している。その採集個体の一部はゲノム解析、トランスクリプトーム解析に使用しており、その結果も出始めている。また、日本での珍渦虫の採取にも成功しており、Xenoturbella japonicaとして新種記載を行った。そして、日本の珍渦虫、及びスウェーデンの珍渦虫をマイクロCTスキャンにより形態学的観察を行ったところ、これまで珍渦虫では報告のなかった構造、frontal pore(前端孔)を発見した。 平板動物に関しては、繁殖時期の再現性が確認された。また、消化や摂食行動の研究、浸透圧などの環境変化に対する応答実験も実施した。これらの実験の成果もあり、飼育系は安定して個体数が維持できるようになり、この飼育系を用いたトランスクリプトーム解析の予備的な結果も出始めている。さらに、有性生殖の効率的な観察の為の野外からの平板動物の採取、及びハプロタイプの決定も進んでいる。アルコール法という新たな採取方法も確立し、現在日本8箇所から7ハプロタイプの採取に成功している。 扁形動物に関しては、トランスクリプトームの解析が進んでおり、予備的な結果も出始めている。また、実験室内での受精卵、遊泳幼生の獲得に成功している。 トリノアシに関しては、若い成体の継続的な飼育に成功しており、その成長に関して新たな知見が得られている。また、過去に作製した固定胚の観察も進んでいる。 以上まとめると、各発生ステージの大量固定が行えていない種もあるものの、過去に作成した固定胚の観察、及びトランスクリプトーム解析等を行うことで,全体としてはおおむね順調に目的に向かって進展していると考える。また、生息場所、繁殖時期、種内の多様性、成体飼育系の確立など、発生学的研究の礎となるような基礎的な生物学的データの集積に関しては、各動物グループに関して当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、今後も各動物種において、生殖過程の観察、発生過程における各発生段階の観察及び固定胚の作製を行う。また、ゲノム解析やトランスクリプトーム解析等も、それぞれの種の研究の進展に合わせて適宜行う。さらに、生息場所、繁殖時期、種内の多様性、成体飼育系など、発生学的研究の礎となるような基礎的な生物学的データの集積も各動物種において進める。 珍渦虫はスウェーデンでのみ定期的な採集が可能だが、厳しい寒波の際には繁殖時期の成体の採集が不可能になってしまう。2016年2月にはアメリカ西海岸の太平洋から珍渦虫が報告されたが、これらの珍渦虫は主に水深1,500m以深の海底から採取され、定期的な採集は困難である。したがって、繁殖時期も含めて定期的な採取が可能な種が発見されれば珍渦虫の研究が大きく進むことが期待されていた。本課題では日本近海の水深300-600mで珍渦虫の新種Xenoturbella japonicaを採取することに成功している。今後は、定期的な採取方法の検討、より多く生息する海域の探索、実験室飼育系の確立、生殖・発生に関する研究など、この種を珍渦虫研究のモデル種とするべく、研究を進めていきたい。 平板動物に関しては、安定した匹数をほこる実験室内飼育系を維持できるようになった。この系統を用いたトランスクリプトームに関しても予備的なデータが得られており、今後も研究を進める。また、平板動物は分裂や出芽による無性生殖を頻繁に行うことは知られているものの、その個体発生過程はほぼ知られていない。本研究では日本8箇所から7ハプロタイプの採取に成功している。異なった場所で採取した個体同士、そして異なったハプロタイプ同士の方が有性生殖の可能性が高いと考え、今後は得られた複数のハプロタイプを用いることで、平板動物の有性生殖、個体発生過程の観察を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 所属機関である筑波大学下田臨海実験センターの改修工事が当初の予定を超過し平成26年度途中までかかったため、工事とそれに伴う研究室の引越が完了するまで、本研究計画の一部実験を開始できなかった。その時の実験や機器購入の遅れが現在も影響として残っており、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 改修工事終了後はおおむね順調に研究が進展しており、今後も研究の進展具合に応じて、当初計画していた物品費、学会で発表するための旅費、論文の投稿費用などとして、未使用額を使用していく予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
30年度が最終年度であるため、記入しない。
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備考 |
国立科学博物館で開催された企画展「まだまだ奥が深いぞ!『相模の海』-最新の生物相調査の成果-」の準備委員として、参加し、動物の多様性に関する成果を発表した。 日本近海で採取した珍渦虫の論文が毎日新聞、伊豆新聞、茨城新聞、つくばサイエンスニュース、筑波大学新聞など各種メディアに取り上げられた。
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