研究課題/領域番号 |
26711024
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
細 将貴 京都大学, 白眉センター, 助教 (80557695)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 種分化 / 遺伝子 / 系統地理 / 繁殖行動 / 生殖隔離 / 適応進化 |
研究実績の概要 |
本研究は、適応と生殖隔離の両方に作用する「魔法形質」としてすぐれて単純な機構であるカタツムリの巻型の進化を、行動生態学的アプローチと分子生態学的アプローチの両面から深く追究することを目的とする。当該年度は、広域サンプリングをおこない、多数の生体を得ることと、それらの飼育方法を確立すること、および分子マーカーを用いた系統地理学的解析をおこなうことの3点に注力し、プロジェクトの基礎固めをおこなった。まず8月に広域サンプリングの一部を実施し、掛け合わせ実験に用いる予定の多くの生体を得た。しかしながら天候に恵まれなかったため、予定していた地点数を網羅することができず、また地点によっては得られた個体数も十分ではなかった。飼育に関しては、水生生物飼育用のラックを転用し、集約的な飼育方法の開発を進めた。しかしながら死亡率が思いのほか高くなってしまい、現状では従来通りの手間をかけた飼育方法に暫定的に戻している。容器には工夫の余地が大きく、集約的飼育方法の開発は今後も続行する予定である。また分子マーカーとしてPitxおよびNodalに注目し、それらの増幅に適したプライマーを開発した。これらは巻型を決定する因子として有力であり、複数種から配列を得られれば本プロジェクトの中核部分において大きな前進が見込まれる。今後は同じくNodal signalingに関わる他の遺伝子についてもマーカーの開発を進めていくとともに、タクソンサンプリングのカバレッジを高めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1a) 広域野外調査: 花蓮以南の台湾南東部一帯において8月に実施した。晴天が続いていたため、少数の個体しか得られなかった地点が少なくなかった。生態情報として、個体ごとに発見地点の地上高および殻径を記録した。また、今後予定している安定同位体解析およびDNA解析のための試料として組織片を採取した。 (1b) 交配実験: 交配実験に用いることのできる未交尾個体を確保するため、大規模な飼育システムの確立が必要になった。そこで水生生物飼育用のラックを転用することで集約的な飼育が可能になると考えたが、試したところ死亡率が思いのほか高くなるという問題が発生した。現状では従来通りの手間をかけた飼育方法に暫定的に戻している。未成熟個体から成熟に至った個体はまだいないため、交配実験は開始できていない。 (1c)系統地理的解析: 個体群間の遺伝子流動規模の推定を目的とした分子マーカーの開発を進めた。暫定的に選んだのはPitxとNodalである。プライマー設計はできたものの、現状では地点数、サンプル数ともに解析に用いるには少なすぎるため、成果はまだ得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1a) 広域野外調査: 前年度に調査できなかった地点やサンプル数に不足のあった地点を対象に、再び広域サンプリングを実施する。 (1b) 交配実験: 容器に工夫を施すなど、集約的飼育方法の開発を続行する。 (1c)系統地理的解析: また分子マーカーとしてPitxおよびNodalのプライマーを開発した。今後は同じくNodal signalingに関わる他の遺伝子についてもマーカーの開発を進めていくとともに、タクソンサンプリングのカバレッジを高めていく予定である。 (1d) 安定同位体解析: 調査で得られたサンプルを試料として安定同位体比を計測する(必要と判断した場合には貝殻も用いる)。異なる巻型の二種が共存する個体群と単独の個体群を比較することにより、餌資源の分割による生態的分化が起きているかどうかを判別する。分析機器は京都大学生態学研究センターに共同利用設備として附置されているものを用いる。 (2) 巻型遺伝子の特定: Nodal、Pitxほか、Nodal signaling に関わる遺伝子群のホモログをシーケンシングし、系統推定をおこなう。左巻きの系統を単系統に束ねることの できる遺伝子が見つかれば、巻型遺伝子の有力な候補になる。候補遺伝子の機能確認には、モデル生物の淡水棲巻貝であるLymnaea stagnalisを用いたRNAiを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗が遅れているために、分子実験に要すると想定していた機器類の購入費およびランニングコストが計上されていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
未購入の物品を順次購入していく予定である。またプロジェクト後半に人件費として計上する可能性も考えている。
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