研究課題/領域番号 |
26711027
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 一希 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90533480)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | テングザル / 重曹社会 / 血縁度 / 父系 / コロブス |
研究実績の概要 |
本研究課題の重要事項である、野生テングザルの社会構造を解明するためには、糞からDNAを抽出し、効率的に性判別、個体識別、血縁解析を行なうことが重要である。そこで、横浜市立よこはま動物園にいるテングザル5個体の糞を収集し、DNAマーカーを用いた性判別およびマイクロサテライトの遺伝子型の決定を効率的に行なえる系を整えることい重点をおいて研究活動を行った。
実際に分析を進めていく中で、テングザルの糞試料から、性判別を正しく行うことに成功した。Deadboxのマーカーは多くの霊長類で性判別ができることが示されていた(Villesen & Fredsted 2006)が、今回、テングザルにおいても正確に性判別が行なえることが明らかとなった。また、マイクロサテライトマーカーの遺伝子型の決定も糞試料から抽出したDNAで行なえることも示せた。さらに、マルチプレックスPCRにも成功し、性判別とマイクロサテライト20座位がプライマーセット3つで解析できることを示した。先行研究(Salgado-Lynn et al. 2010)では、今回と同じ20領域を用い、4セットのマルチプレックスPCRを試し、そのうち8領域でしか、糞から抽出したDNAで結果を得られていない。これは、我々が先行研究よりも優れた手法の確立に成功したことを示しており、この方法を用いれば、効率的に糞由来の試料の遺伝子型を判定できる。
今回使用したマイクロサテライト20領域のうち、5領域では多型がなく、HEが0.5を超えるような多様性の高いマーカーは9つとそれほど多くなかった。しかし、PIsibの値は個体識別をするのには十分であることを示すことができた。このことから、例えどの個体が糞をしたか分からない状況で収集した糞であっても、DNA情報のみで個体識別を行なうことができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生テングザルの社会構造を解明するための、糞からのDNA抽出、効率的な性判別、個体識別、血縁解析を行なうためのプロトコルの確立は概ね達成できたといえる。しかし、飼育個体を使用した親子判定の結果、母子判定および母親が既知の場合の父子判定は正確に行なうことができたが、母親を未知とした場合の父子判定では、父親を特定することができなかった。また、血縁推定で、父子ペアが必ずしも高い血縁推定値を示さなかった。加えて、多くのマーカーが低い多様性であったことも事実である。より精度の高い解析を行なうには、さらに多くのマイクロサテライト領域を試し、多様性の高い領域のみを、今後の解析に用いることを検討するべきかもしれない。
|
今後の研究の推進方策 |
Salgado-Lynn ら(2010)は、今回使用したマイクロサテライト20領域の他に、26領域も報告している。これら26領域は、糞での解析がうまくいかなかったと報告されていたため、今回は使用しなかったが、登録配列からプライマーを作成し直すことで、より多様性の高い領域を見つけることができるかもしれない。一般的に、繰り返しの反復数が多い領域の方が多様性が高いので、26領域の中でも反復数の多い領域から試していきたい。
また、分析方法が完全に確立された時点で、実際に野外でテングザルの糞を収集し、随時その分析を進めてくいく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、日本国内で飼育されているテングザルの糞を用いて、野生テングザルの糞から行うDNA抽出、血縁度解析等の一連のプロトコルの確立に力を注いだ。そのプロトコルを確立する過程に、予想していた以上に時間を要すこととなり、野生テングザルの糞の収集のために予定していた海外渡航を次年度に延期することになった。またそれにともない、野外調査に用いる消耗品などを購入する必要がなくなった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
昨年度予定していた、野生テングザルの糞サンプル収集のための海外渡航を次年度に行うことで、次年度使用額分を使用する。またそれにともない、野外調査で必要となる消耗品などの購入のために経費を使用することを計画している。
|