研究課題
本研究の目的は、多くの単雄群と交渉をもつテングザルの雄グループに属する雄の生活史の分析を通し、テングザルが父系的基盤をもつ重層社会を形成している可能性を検証することである。また、テングザルの社会構造の特徴を他の霊長類の社会と比較し、重層社会の形成メカニズムの多様性と、その進化を促す要因を検討することも本研究目的の一つである。本年度は、前半部分のテングザルの重層社会の特徴を、遺伝子解析によって明らかにするための野外調査、実験を実施した。昨年度から収集していた、遺伝子解析用の糞プルの採取を継続し、雄グループの行動観察、また雄グループが生息する森林における植物季節性(フェノロジー)の調査を行った。また同時に、調査地の複数の雄グループの個体群動態を調べるため、ボートセンサスも実施した。遺伝解析のために収集した糞サンプルは、一昨年に動物園個体の糞を使って確立したプロトコルを用い、予備的な実験を実施した。その結果、野生由来の糞においても、テングザルの雄グループ内の個体間の血縁度を分析できる高い精度の結果を得ることができた。一方で、飼育個体からの糞ではみられなかった、解析に適さない糞サンプルも一部混在することがわかった。これは、サンプリングした個体が、糞をしてから実際に回収するまでの経過時間の差や、その日の気象条件などによる影響だと考えられた。予備実験を完了したため、残りの糞全ての分析を開始するための実験準備の整備までおこなった。よって、29年度は本実験を行い、分析結果をもちいて論文の執筆まで行えることが期待できる。また、他の重層社会を形成する霊長類種を研究している研究者と、どのようなデータの比較が可能かをメール等で議論した。
3: やや遅れている
マレーシア・サバ州からの国外への糞サンプルの持ち出しに関するルールが変更され、その手続きの把握に時間を要した。結果として、サバ州内の研究者と協力して現地でサンプルの分析を実施できる環境を整えることにし、その整備に時間がかかったため、当初よりも遺伝子解析の実験がやや遅れてしまう結果となった。
上述のとおり、テングザルの糞サンプルのマレーシア国外への持ち出しに関するルール変更で、研究計画の変更を余儀なくされた。しかし、現地で分析できる環境を整え、すでに予備実験まで行っており、順調にいけば29年度内に予定していた実験を十分に完了できる。よって、現段階においての大きな研究計画の変更は考えていない。ただし、これも上述のとおりだが、野生由来の糞サンプルの一部は、遺伝子解析に適さないものも含まれていることがあるため、29年度も予備として現地での糞サンプルの収集を実施することとする。遺伝子解析と同時進行で、雄グループの行動解析、個体群動態を把握するために実施したボートセンサスの集計、植物フェノロジーの分析も実施し、29年度内に論文を出版するための準備を進めることとする。
マレーシア政府が、霊長類の糞のサンプルを国外へ持ち出す際のルールを大幅に変更したため、当初予定していた日本国内での遺伝子実験を実施することができなかった。その代替策として、マレーシア国内で遺伝子実験の予備的な実験をするだけにとどまった。よって、日本国内において実施を予定していた遺伝子実験のための経費を使用することができなかったため、次年度使用額が生じた。
すでにマレーシア国内で実験を実施できる環境を整備することができたため、日本国内で実施を予定していた遺伝子実験を、マレーシアで実施することが可能となった。よって、28年度に予定していた遺伝子実験のための経費を、29年度に実施する遺伝子実験で使用することを計画している。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Physiological and Biochemical Zoology
巻: 90 ページ: 383~391
10.1086/691360
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 42774~42774
10.1038/srep42774
Japanese Psychological Review
巻: 59 ページ: 114-117
Mammal Study
巻: 41 ページ: 101-106
10.3106/041.041.0201
Tropical Conservation Science
巻: 9 ページ: -
10.1177/1940082916680104
巻: 41 ページ: 141-148
10.3106/041.041.0304
https://sites.google.com/view/ikki-matsuda