テングザルは、単雄群を社会の基本単位とするが、他の多くの種の単雄群で見られる子殺しが見られず、また単雄群間の敵対的交渉も少ない。申請者はこの傾向を説明するものとして、本種が父系的基盤をもつ重層社会を形成し、そのため雄間の血縁度が高くなっているという仮説を立てて研究を実施した。飼育テングザルの糞より開発した遺伝子マーカーを用い、300以上の野生個体の糞から本種の血縁度解析に必要となるデータを得た。今まで謎に包まれていた全雄群内の血縁度を明らかにした。また、全雄群の行動観察データから、一見すると平和的なテングザルの重層社会は、実は強い雄間競争により進化した可能性があることを示した。
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