キュウリモザイクウイルス(CMV)は、様々な農作物に被害を及ぼす多犯性の植物ウイルスである。CMV抵抗性育種に利用可能な親品種が無い作物が多く、CMV抵抗性を付与するための基礎研究が望まれている。植物ウイルスは、感染時に植物の遺伝子産物(宿主因子)を利用している。宿主因子の同定は、Cas9を用いたゲノム編集などによる劣勢抵抗性の付与への基盤となる重要な基礎研究である。平成29年度には、CMVの複製に関与する宿主因子の単離を試みた。年度当初には、葉で発現している遺伝子を標的としてCMV感染に必要な宿主因子のRNAiスクリーニングを行う予定であったが、発現している遺伝子数が多かったことから、より絞り込んだ遺伝子群を標的にしてRNAiスクリーニングを行った。CMVは、液胞膜上で複製することが知られている。また、いくつかの植物ウイルスの複製には膜上のリン脂質が重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた。そこで、シロイヌナズナの液胞膜局在タンパク質のプロテオミクス解析と、リン脂質代謝関連遺伝子のデータベースの情報を参考にして、CMVの宿主因子候補を含むと思われる標的遺伝子群を絞り込んだ。その後、in silicoで各標的遺伝子に対する人工tasiRNAをデザインした。遺伝子ファミリーごとに様々な順序と組み合わせで人工tasiRNAを3種類連結させたオリゴDNAライブラリーをデザインし、CustomArray社のOligo poolsを利用して、ライブラリー作成用のオリゴDNAを合成した。Golden gate クローニングによって、RNAiスクリーニング用の人工tasiRNA発現ライブラリーを作成し、シロイヌナズナを形質転換して宿主因子スクリーニングを開始した。残念ながら、研究期間内にCMVの新規宿主因子の同定には至らなかったが、今後もスクリーニングを継続し、CMVの宿主因子を同定するつもりである。
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