研究課題
植物は土壌中/植物体内のミネラル栄養濃度をセンシングし、輸送系を制御して変動するミネラル環境に適応している。ホウ酸は植物の生育に必須であるが、過剰に蓄積すると毒ともなる。シロイヌナズナBOR1はホウ酸の細胞外への排出を促進する細胞膜局在型ホウ酸トランスポーターであり、低ホウ酸条件時にホウ酸の導管方向への輸送を担う。重要なことに、BOR1は高ホウ酸濃度にさらされるとユビキチン化を受け、細胞膜からエンドソームを経由して液胞に輸送され、分解される(以下、分解応答と呼ぶ)。本研究では、BOR1がレセプター(トランスセプター)としてホウ酸濃度をセンシングし、自身の蓄積量を制御して適切なホウ酸輸送量を保つ可能性を検証する。また、BOR1の相同タンパク質であるBOR3もホウ酸のトランスセプターとしてホウ酸濃度を認識し、ホウ酸の利用を制御する可能性を検証する。本年度は、これまでに同定した分解応答に重要なBOR1内部のアミノ酸残基およびそれらの周辺のアミノ酸残基の役割の解析を進めた。また、新規遺伝学的スクリーニングにより、分解応答に重要と考えられるアミノ酸残基を新たに二つ発見した。これらのアミノ酸の役割について詳細に解析するため、各種アミノ酸置換型BOR1-GFPを発現する形質転換植物を整備した。さらに、各種ホウ酸アナログをテストし、BOR1の分解応答を比較した。今後、これらのツールを用いることで、BOR1の分解応答にホウ酸輸送活性が必要かどうか解析することとBOR1のホウ酸結合サイトの探索が可能になった。BOR1の相同タンパク質のひとつであるBOR3については、複数の機能欠損変異株を整備するとともに発現組織の詳細な解析を進めた。その結果、BOR3は盛んに細胞伸長が起こる組織で発現することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
BOR1の細胞質側(推定)ラージループ領域の5’側末端に位置し分解応答において重要と考えられた3つのアミノ酸および周辺のアミノ酸残基の機能について解析を進めたところ、この領域はホウ酸センシングではなく、おそらく輸送小胞への選択的積み込みに重要であると考えられる結果を得た。また、当初の計画を前倒しし、大腸菌で発現精製したラージループとホウ酸の相互作用を等温滴定型カロリーメーターと円偏光二色性測定にて解析したところ、ポジティブな結果は得られなかった。しかしながら、BOR1の別の2箇所のループ領域に分解応答に重要と考えられるアミノ酸を新たに発見することができた。これらのアミノ酸を置換したBOR1-GFPでは、通常より高濃度のホウ酸供給によってエンドサイトーシスと分解が起こったため、ホウ酸センシングの感度が変化した可能性が考えられる。また、根への外部投与によりBOR1のエンドサイトーシスと分解を誘導できるホウ酸アナログを見出した。BOR3については、アリールを複数整備してホウ素濃度に依存した生育を解析した。その結果、アリール (bor3-3, bor3-4)株ではbor3-1変異株で見られていた低ホウ素条件で野生型よりも主根の伸長が良い表現型は見られなかった。そのためBOR3がホウ酸濃度をセンシングし、低ホウ素時に積極的に主根の伸長を抑制する働きを持つという仮説は支持されなかった。しかしながら、GUSおよびGFPレポーターを用いた発現と局在の解析から、細胞伸長が盛んな組織においてなんらかの機能を持つ可能性が示唆された。以上のように、当初の計画の通りではないが、植物のホウ酸トランスポーターがホウ酸トランスセプターとして働くことを示す目標に近づいた。
BOR1内部のアミノ酸の役割の解析を進め、特にホウ酸センシングに関与するアミノ酸の特定を目指す。具体的には、各アミノ酸置換がBOR1のホウ酸輸送活性と自己のユビキチン化および分解応答に与える影響を定量的に解析する。BOR1のホウ酸輸送活性はアフリカツメガエルの卵母細胞発現系では検出できなかったため、酵母発現系を改良して行う。また、各重要アミノ酸のタンパク質内での配置を理解するため、BOR1のN/C末端および各ループについてroGFPを用いたトポロジー解析を行う。さらには、ホウ酸アナログ光親和性ラベリング試薬を協力研究者に作成して頂き、光親和性架橋と質量分析によりBOR1のホウ酸結合サイトを同定する。これらによって、<ホウ酸を活発に輸送する形態がユビキチン化を受けて分解されやすい形態である>もしくは<ホウ酸輸送とは独立したホウ酸結合部位によりホウ酸濃度をセンシングし、ユビキチン化と分解を引き起こす>という二つの仮説を検証する。BOR1分解シグナリング系の全体像を明らかにするために、BOR1の分解に異常を持つEMS変異株の高速スクリーニングを実施したが、得られた変異はBOR1の内部のアミノ酸置換を引き起こすもののみであった。そこで、artificial miRNAライブラリーを形質転換しBOR1の分解に異常を持つ株をスクリーニングする系を開発する。本手法によって機能重複のある遺伝子も同定することができる。BOR3については、BOR1およびBOR2との機能重複や相互作用の可能性を考え、ダブル/トリプル変異株を作出して生理機能を解析する。また、発現組織と局在の解析もBOR1およびBOR2と比較しつつ詳細に行う。
主に旅費と人件費・謝金の出費が交付時の使用予定を下回った。旅費に関しては、2015年3月の植物生理学会東京大会等での学生の成果発表にかかる費用を想定していたが進捗状況により見合わせた。人件費・謝金については研究補助員の短期雇用を予定していたが、代表者と学生によって研究に進展が得られたために見合わせた。
研究を推進するため、H27年度後半より研究補助員を雇用する。短期であるが、博士研究員の雇用も予定している。また、各種抗体の購入と質量分析に比較的多額の物品費が必要になる。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (4件)
Plant Cell Physiology
巻: 56 ページ: 未定
10.1093/pcp/pcv011
Method in Molecular Biology
巻: 1209 ページ: 203-217
10.1007/978-1-4939-1420-3_16
eLife
巻: 3 ページ: 1-20
10.7554/eLife.03115
Soil Science and Plant Nutrition
巻: 60 ページ: 341-348
10.1080/00380768.2014.881705
Plant Journal
巻: 78 ページ: 890-902
10.1111/tpj.12511
巻: 55 ページ: 704-714
10.1093/pcp/pct191
http://www.agr.hokudai.ac.jp/arabi/
http://or.research.hokudai.ac.jp/next/
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/nyu/frontier/01.html
http://www.oia.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2013/03/magazine2013english.pdf