研究課題/領域番号 |
26712007
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高野 順平 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70532472)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物栄養 / センシング / エンドサイトーシス / ホウ素 / 細胞内輸送 / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
植物は土壌中/植物体内のミネラル栄養濃度をセンシングし、輸送系を制御して変動するミネラル環境に適応している。ホウ酸は植物の生育に必須であるが過剰に蓄積すると毒ともなる。シロイヌナズナBOR1はホウ酸の細胞外への排出を促進する細胞膜局在型ホウ酸トランスポーターであり、低ホウ酸条件時にホウ酸の導管方向への輸送を担う。BOR1は高ホウ酸濃度にさらされると細胞膜から液胞に輸送され、分解される。本研究では、BOR1がレセプター(トランスセプター)としてホウ酸濃度をセンシングし、自身の蓄積量を制御して適切なホウ酸輸送量を保つ可能性を検証する。 本年度は、これまでに同定した分解応答に重要なBOR1内部のアミノ酸残基の機能解析を進めた。ホモロジーモデリングによるBOR1の構造予測も行ったところ、これらアミノ酸が輸送基質としてのホウ酸の結合サイトを形成することが示唆された。以上よりBOR1はホウ酸輸送とセンシングが共益するトランスセプターである可能性が強まった。 また、BOR1の分解応答に関する遺伝学的スクリーニングに用いたBOR1-GFP-HPT形質転換シロイヌナズナについて、生理学的な解析を進めた。BOR1-GFP-HPTタンパク質はBOR1のもつ根の中心向きの偏在性を失っているが、さらにホウ酸応答による分解性を失ったBOR1(K590A)-GFPをUBQ10プロモーターで発現する植物では、様々な細胞からのホウ酸排出がホウ酸過剰耐性をもたらすことを明らかにした。 さらに、BOR1の分解応答の全体像を理解するためBOR1のエンドサイトーシスのメカニズムを逆遺伝学的に解析し、BOR1の偏在性および分解応答はクラスリン依存エンドサイトーシスによることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに同定した分解応答において重要なBOR1内部の5つのアミノ酸残基について解析を進めた。酵母におけるホウ酸輸送活性の測定とホモロジーモデリングによるBOR1の構造予測が可能になった。その結果5つのアミノ酸のうち4つはホウ酸輸送とセンシングの両方に必要である結果が得られた。したがって<ホウ酸を活発に輸送する形態がユビキチン化を受けて分解されやすい形態である>という仮説が支持された。 BOR1におけるホウ酸結合サイトを決定するため、ホウ酸アナログ光親和性ラベリング試薬を橋本誠博士(北海道大学農学研究院)に作成して頂いた。本アナログはBOR1の分解応答を誘導した。光親和性架橋とペプチト質量分析を行ったが、ホウ酸アナログの結合したBOR1の部分ペプチドの同定には至っていない。 昨年度、BOR1の分解応答の全体像を理解するため順遺伝学的なスクリーニングを実施したが、その結果得られた変異がすべてBOR1内部に集中していた。そのため、逆遺伝学的な細胞内輸送経路の解析に力を入れた。ダイナミン様タンパク質の解析を通してBOR1のエンドサイトーシスの主要な部分はクラスリン依存エンドサイトーシスによるものであることを明らかにした (Plant Physiologyに投稿中)。さらに、BOR1の偏在性維持と液胞輸送のためには別々のアダプタータンパク質が働くことを見出した。 上記概要に記したBOR1(K590A)-GFPの解析については、Frontiers in Cell and Developmental Biology誌に発表した。 植物の生長を制御するホウ酸トランスセプターの候補と考えていたBOR3については、昨年度に変異体アリールで目立った表現型が見られず仮説が支持されたなかったことから、bor1bor2との多重変異体の整備の他は研究を進めなかった。
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今後の研究の推進方策 |
BOR1内部のアミノ酸の役割の解析をさらに進める。昨年度に引き続いて各アミノ酸置換がBOR1のホウ酸輸送活性と自己のユビキチン化および分解応答に与える影響を"定量的に"評価する。これによって、<ホウ酸を活発に輸送する形態がユビキチン化を受けて分解されやすい形態である>という仮説の証明を目指す。 BOR1分解シグナリング系の全体像を明らかにするためには、小胞輸送に関する因子の逆遺伝学的な解析に力を入れる。クラスリンアダプタータンパク質として知られるAP複合体1/2/3/4について、BOR1の細胞内輸送における使い分けを解明する。BOR1の分解応答にはAP複合体の他にユビキチン化を認識してクラスリン小胞に詰め込むアダプターが必要と考えられる。その候補と考えられるTOLタンパク質ファミリーについて解析する。 BOR3については、BOR1およびBOR2との機能重複や相互作用の可能性を考え、ダブル/トリプル変異株を作出し、様々な生育条件を慎重に検討して生理解析を行う。 代表者らは別研究課題において細胞内ホウ酸濃度レポーターを開発している。これは、ホウ酸チャネルNIP5;1の5’UTR領域がホウ酸濃度に応じてmRNA分解により下流の遺伝子発現を抑制する現象を利用したもので、主にproUBQ10:NIP5;1 5’UTR:3xVenus-NLSというコンストラクトを使用している。原理的に植物体のすべての細胞において、相対的なホウ酸環境をマップすることができる。ホウ酸センシングの研究にも本レポーターを活用し、ホウ酸センシングの生理学的な意義を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規遺伝学スクリーニング系の立ち上げを計画していたが、代表者の研究機関異動が決定し担当学生数が減ることもあり、計画を中止した。そのため消耗品の購入を見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに博士研究員を採用し、研究を推進する。異動に伴い、純粋製造装置などの機器を購入する。
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