研究課題/領域番号 |
26712012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮園 健一 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90554486)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 制限酵素 / X線結晶構造解析 / DNAグリコシラーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、超好熱古細菌Pyrococcus abyssi由来のR.PabIに代表される「half pipe」型制限酵素の構造と機能を理解すること、また、「half pipe」型制限酵素を有する病原菌(Helicobacter属・Campylobacter属)の生育を制限するシステムを、「half pipe」型制限酵素の機能調節を通じて行うことを目標としている。平成27年度は、R.PabIが目的配列を探索する際に、二本鎖DNA依存的な4量体構造を形成すること、および二本鎖DNA依存的な4量体構造が、効率的に認識配列を探索するために重要であることを解明した。また、これまでに構造が決定できていないR.PabI-基質DNA複合体の構造解析に着手し、結晶を得ることに成功した。また、平成27年度では、病原菌由来R.PabIホモログタンパク質の大量発現・精製・結晶化実験も行った。制限酵素の大量発現は、その細胞毒性により困難である場合が多いが、先行するR.PabIの構造・機能解析の結果得られた知見をうまく活用することにより、Helicobacter属由来ホモログタンパク質の大量調製及び、Campylobacter属由来ホモログタンパク質の大量調製・結晶化・X線回折実験を行うことに成功した。Campylobacter属由来ホモログタンパク質は、R.PabIと同様にDNAグリコシラーゼ活性を有しており、PEG 6000を沈殿剤とする条件で良質な結晶を得ることに成功した。この結晶を用いて、大型放射光施設Photon FactoryでのX線回折実験を行ったところ、最高分解能が2.6ÅのX線回折データを取得することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、食中毒の病原菌として知られるCampylobacter coli由来のR.PabIホモログタンパク質の大量調製系を確立することに成功し、得られた高純度タンパク質を用いることにより、X線回折実験に適した高品質の結晶を得ることに成功している。R.PabIとのアミノ酸配列上の類似性があまりないため、分子置換法による構造決定はできなかったが、重原子同型置換法や異常分散法などを用いることにより、早期に構造を決定できるであろうと考えている。また、Helicobacter pylori由来のR.PabIホモログタンパク質に関しては、収量が少ないものの、大量調製系を確立することに成功しており、得られた高純度タンパク質を用いた結晶化スクリーニングを進めている段階にある。Campylobacter属及びHelicobacter属由来のR.PabIホモログタンパク質のX線結晶構造解析実験は、おおむね当初の研究計画通りに進捗しており、このまま研究を進めていけば、病原菌由来「half pipe」型制限酵素の機能を調節しうる化合物のin silicoスクリーニングを行う環境が整いつつある。また、R.PabIがDNAを切断する機構の更なる解明を目指した、不活性型R.PabI-基質DNA複合体のX線結晶構造解析実験に着手しており、重要な構造情報が得られるであろう結晶の作出に成功するなど、研究は順調に進捗している。以上の理由から、本研究の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、Helicobacter属及びCampylobacter属由来R.PabIホモログタンパク質の構造・機能解析研究を主として行う。これまでに、Campylobacter coli由来のR.PabIホモログタンパク質の単独の結晶化に成功しているので、平成28年度は、Helicobacter pylori由来のR.PabIホモログタンパク質の結晶化及び、両ホモログタンパク質の基質・産物二本鎖DNAとの共結晶化を行う。既存のR.PabIの立体構造を利用した分子置換法による構造決定ができなかったため、異常分散法や同型置換法による構造決定を行う。X線回折データの取得は、所属研究室所有のX線発生装置(FR-E SuperBright (リガク))や、大型放射光施設Photon Factoryのタンパク質結晶構造解析用ビームラインにて行う。Helicobacter属及びCampylobacter属由来half pipe型制限酵素の構造決定後は、化合物ライブラリに対するドッキングシミュレーションを行い、酵素機能を調節しうる化合物の絞り込み研究を行う計画である。 また、若手研究(A)によって、「half pipe」型制限酵素がDNAグリコシラーゼであることが明らかになったため、そのDNA切断メカニズムのより詳細な解析が必要となった。R.PabIの解析では、これまでに、1.タンパク質単独の構造、2.非特異的な二本鎖DNAと結合した構造、3.反応産物二本鎖DNAと結合した構造が解析されているが、4.基質二本鎖DNAと結合した構造はまだ得られていない。そこで、R.PabI-基質二本鎖DNA複合体の構造解析も並行して進め、「half pipe」型制限酵素によるDNA切断機構の全容解明を目指す。
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