研究課題/領域番号 |
26712021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 怜 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 講師 (20547228)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体計測 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,迅速かつ安価な医薬用タンパク質(PP)生産法である,植物を利用した一過性遺伝子発現法において,光合成活性を表すクロロフィル(Chl)蛍光パラメータなどの生体情報が植物葉内のPP含量を反映するという着想および萌芽的実験結果にもとづき,PP含量の変動を非破壊・非接触で推定する計測技術を開発することにある。本年度は,おもにPP含量の推定に利用可能なパラメータの選定に関する研究を進めた。まず,光化学系(PS)IIおよびIにおける電子伝達活性の情報を同時に取得することのできるパルス変調(PAM)蛍光測定装置を導入し,電子伝達活性の測定法の予備的検討を行った。遺伝子を導入しない植物において,既往の報告におけるPSIIおよびPSIの電子伝達活性と同程度の値が計測されることを確認した。次に,供試植物に一過性遺伝子発現法のモデル植物であるベンサミアナタバコを,PPにインフルエンザワクチンタンパク質であるヘマグルチニンを用いて,解体ウイルスベクターによりベンサミアナタバコにPPの遺伝子を導入した後,個葉のPSIIおよびPSIの電子伝達活性パラメータを測定した。遺伝子導入植物と非導入植物との間に,過去の研究において認められたPSIIの電子伝達活性の差に加えて,PSIの電子伝達活性にも差が認められることを確認し,PP含量の変動の推定に利用しうるパラメータの候補を複数得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PAM蛍光測定装置によるPSIIおよびPSIの電子伝達活性の計測法を確立するとともに,遺伝子導入植物と非導入植物との間にPSIIおよびPSIの電子伝達活性に差が認められることを確認し,PP含量の変動の推定に利用しうるパラメータの候補を得た。PAM蛍光測定装置の導入が当初の想定よりも遅れたことにより,計測条件の詳細な検討などの課題は残ったものの,研究はおおむね当初の予定にしたがって進捗したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず,本年度と同様の実験を反復し,遺伝子導入植物と非導入植物との間のPSIIおよびPSIの電子伝達活性パラメータの差について,再現性の確認を行うとともに,PP含量と相関の高いパラメータを選定する。その際,PP含量が増加する時期と減少する時期とで,PP含量と相関の高いパラメータが異なる可能性にも留意する。また,計測時の環境要素の影響を調べ,適切な計測条件を明らかにする。さらに,計測の理論的背景にも着目し,PP含量の変動がパラメータに影響を及ぼす生理的な機作についても予備的検討を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由の1つは,当初は研究補助員を1名雇用する予定にしていたものの,研究の進捗の程度を考慮すると,次年度以降にあらためて雇用を検討する方が効率的であろうと判断したことによる。もう1つは,納入業者側の都合でPAM蛍光測定装置の導入が遅れたため,実験に使用する消耗品等への支出が当初の想定よりやや少なかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,おもに植物栽培やPP含量の定量に要する試薬などの消耗品,情報収集や研究成果を学会発表等で公表する上で必要な旅費などに研究費を使用する予定である。また,研究の進捗の程度を考慮しつつ,研究補助員の雇用や研究補助者への謝金の支出など,人件費としての支出も検討する。
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