プロリン異性化酵素Pin1に着目してその機能解析を行った。体細胞において、Pin1は広範なタンパク質(Ser/Thrキナーゼ)をターゲットとして、そのタンパク質の安定性や構造変化を調整することによって、細胞分化・増殖に必要な微小管の重合や細胞周期の進行に関与している。卵子の成熟過程において、Pin1特異的阻害剤であるJuglone、DTMをそれぞれ処理すると、濃度依存的に第一極体の放出が抑制され、卵子の成熟を有意に阻害した。同条件で細胞内小器官の局在を調べてみると、極体放出前に出現するアクチンキャップは細胞質表層で形成されているものの、紡錘体の形成が不完全あるいは、細胞表層へ移動した紡錘体の向きが適切でなかったために、極体放出がなされなかったことが明らかとなった。In vivoでの検証を行うため、Pin1欠損(ヘテロ)マウス由来の排卵卵子を解析したところ、約8割の卵子で極体放出が認められなかった。減数分裂の進行には、アクチンやミオシンなどのタンパク質の機能が不可欠であるが、Pin1の阻害はそれらの機能を大きく阻害した。次に、この現象が卵子の減数分裂に特異的なものなのかを検証するため、初期胚発生におけるPin1の機能を解析した。タイムラプスイメージングを用いて、Pin1を阻害した受精卵の発生を観察したところ、2細胞期以降の正常な卵割が阻害された。すなわち、Pin1阻害により、一部の割球で細胞分裂が進行する現象や、染色体の分配を伴わない細胞分裂などが頻出した。これらの結果から、Pin1は卵子の減数分裂のみならず、初期胚発生においても重要な役割を果たしていることが明らかとなった。減数分裂や初期胚発生過程では、多くのSer/Thrキナーゼの関与が知られているが、本研究の結果、これらのタンパク質の機能は、Pin1によるプロリン異性化によって厳密に制御されている可能性が示された。
|