研究実績の概要 |
本研究で対象とするフェロモン成分であるボンビコール(BOL)、ボンビカール(BAL)、ボンビキルアセテート(Bkyl)のうち、Bkylに応答する受容体はテンオビシロカサン、イチジクカサンで見出されている。GC-EADによる解析からカイコガのオス触角はBkylに電気的応答を示すことが報告されているが、その受容体は同定されていない。そこで、本年度はカイコガのフェロモン受容体(BmOR1, 3)に加え、類似遺伝子(BmOR4, 5, 6, 9)について解析を実施したが、結果としてBkylへの応答を示す受容体の同定にはいたらなかった。 並行して、フェロモン結合タンパク質遺伝子の解析の過程で、本遺伝子のノックアウトカイコガではオス触角におけるフェロモンへの時間応答特性が野生型と比べて変化していることを見出した。さらに、この応答特性の変化により、オスカイコガのフェロモン源定位効率が低下している可能性を示唆する結果が示された。この結果は、フェロモン源への定位成功には受容体の選択性に加えて、受容細胞の時間応答特性が関与している可能性を示唆しており、フェロモン選好性の解明に向けて非常に重要な情報を得たといえる。 本課題と関連して、メスカイコガのフェロモン腺に存在する、カイコガ性フェロモンであるBOLの幾何異性体(E,E体)が、高濃度ではオスカイコガのフェロモン源定位行動を解発すること、さらに、E,E体の情報はBmOR1を介して行動を解発することを示す結果を得た。また、メスのフェロモン生合成系に関して、これまでカイコガに特有である可能性が考えられていたフェロモン腺における油滴構造が野外種にも存在することを示す結果を得て原著論文として報告した(Fujii et al., 2018 in press, J Insect Biotechnol Sericol)。
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