研究実績の概要 |
本研究課題は、性フェロモン交信系のモデル生物として研究が進んでいるカイコガとその近縁種を用いて、フェロモン認識機構の進化の遺伝子基盤を解明することを目的とした。 本年度は、単一感覚子記録法により、イチジクカサンのフェロモン受容細胞の応答特性の解析を行い、カイコガとの比較を実施した。単一感覚子記録の結果、イチジクカサンのオス毛状感覚子からは2つの異なる振幅の自発発火が記録されたことから、感覚子内部に2つの受容細胞が存在することが示唆された。カイコガ近縁種のフェロモン成分であるボンビコール(BOL)、ボンビカール(BAL)、ボンビキルアセテート(Bkyl)でそれぞれ刺激を行ったところ、2つの受容細胞はそれぞれBALとBkylに特異的に応答を示した。またBOLにはいずれの受容細胞も応答を示さなかった。カイコガにおいても毛状感覚子内には2つの受容細胞があり、それぞれBALとBOLに特異的に応答し、Bkylには応答を示さない。またBALに特異的なフェロモン受容体はイチジクカサンとカイコガの間で保存されていることから、両種のフェロモン受容系では、BALの受容系は保存されており、もう一方の受容細胞で発現するフェロモン受容体遺伝子が種間で変化し、同時期にフェロモン化合物もBkylからBOLに変化することで両種間のフェロモン交信系の変化が生じた可能性が示唆された。現在、これらの解析結果をまとめた論文の投稿準備を進めている。 並行して、前年度までに実施したフェロモン結合タンパク質遺伝子ノックアウトカイコガの解析結果をまとめた原著論文を発表した(Shiota et al., Sci. Rep, 2018)。加えて、カイコガのフェロモン腺に含まれる、BOL幾何異性体(E,E体)のオスカイコガの受容機構に関する原著論文をまとめて投稿した(Fujii, et al., Under review)。
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