研究課題/領域番号 |
26712028
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研究機関 | 千歳科学技術大学 |
研究代表者 |
平井 悠司 千歳科学技術大学, 理工学部, 講師 (30598272)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 昆虫ミメティクス / 摩擦 / 自己組織化 / 鱗片 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究目標は、平成26年度に引き続き昆虫体表面、特に鱗片表面の摩擦力を原子間力顕微鏡を用いて測定することと、昆虫体表面の微細構造を模倣した高分子微細構造の作製および摩擦力の測定であった。前年度の成果であり、摩擦測定用のマダラシミを順調に飼育することができたため、微小球プローブによる摩擦力測定を十分に行うことができた。また北海道大学との共同研究により、自己相関関数を使った周期検出法を用いて鱗片表面の溝のばらつきを解析した結果、優位な差があることを情報科学的に証明した。これらの結果とマダラシミの生態や鱗片の利用方法等を良く知る昆虫学者との議論により、鱗片の機能や微細構造と摩擦の関係性を明らかにすることができたため、本研究成果は現在原著論文としてまとめ上げ、近日中に投稿予定である。またハイスピードカメラを用いることで、マダラシミがどの程度の速度で移動するかを明らかにした。この結果を受け、マダラシミ鱗片模倣材料がどの速度域で有効に働く可能性があるのか、その指針を得ることができた。さらにシュリンクフィルム表面にナノスケールの金属膜をスパッタリングすることで、表面に自己組織化リンクルを形成させることに成功した。今後はこれらの構造を金属表面に形成させ、摩擦力を測定することを目標に研究を行う予定である。また、摩擦・摩耗試験機(トライボギア)を立ち上げ、原子間力顕微鏡よりも大きな圧子および測定範囲で摩擦力を測定することが可能なことを確かめたため、作製した新規材料についてはこの摩擦力測定装置も用いて測定を行う予定である。 本研究の成果は国際会議の口頭発表1件、ポスター発表1件、国内学会で口頭発表2件(内1件は招待講演)、ポスター発表2件を行い、情報の発信にも務めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昆虫体表面、特に鱗片表面の摩擦力と微細構造の関係性に関しては十分な知見が得られ、原著論文としておおよそ完成し、後は最終チェックと投稿を残すのみではあるものの、平成27年度のもう一つの目標であった微細構造作製に関しては、加工に必要なシュリンクフィルムの入手に手間取り、マダラシミ鱗片表面の模倣材料作製を進めることができなかった。ただし、平成27年度末にシュリンクフィルムを数種類手に入れることができ、金属薄膜をスパッタリングすることでしわを形成させられることが確認できたため、今後は加速度的に模倣材料の作製を行うことが出来る状況にある。また他の研究課題において、無電解メッキによるニッケルリン皮膜の形成方法を確立したため、高分子表面の金属化も可能となった。さらに、溶液エッチングによる金属表面の微細加工方法についてもすでに確立しているため、今後はこれらの技術を利用し、早急に鱗片模倣材料を作製する予定である。 摩擦力の測定に関しては、摩擦・摩耗試験機の立ち上げが完了しており、いつでも測定できる状態である。また、マダラシミの移動速度に関してもハイスピードカメラによって測定していることから、マダラシミ鱗片模倣材料の摩擦力測定条件についてもおおよその見込は立っていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度までに昆虫体表面、特に鱗片表面の摩擦力と微細構造に関する知見がおおよそ得られたので、昆虫体表面模倣材料の作製を中心に行っていく予定である。基本的には生物と同様の微細構造形成法である自己組織化を利用して微細構造を作製する予定ではあるが、自己組織化技術だけでは対応しきれないときには、フォトリソグラフィ等のトップダウン型の技術も利用していく予定である。トップダウン型の技術については、我々の研究室、大学に設備は無いが、すでに他の課題の共同研究で利用しており、いつでも利用できる体制は整っている。 材質については、始めは加工のし易い高分子材料を中心に模倣材料の作製を行うが、同時に一般的な部材として使用可能な金属材料表面の加工にも応用していく予定である。また、作製した模倣材料の摩擦力も同時に測定することで、微細構造と摩擦特性の相関性に付いても調査を進める予定である。また、微細構造を有することで、濡れ性の増強や、さらに周期構造により蝶の鱗片の構造色のように呈色することも十分に考えられるため、これらの機能も念頭に多角的に機能を測定、生物のようなmulti-functionな材料としての応用も可能か調査する。 その他に、平成27年度に昆虫学者との綿密な共同研究により得られた昆虫の進化と鱗粉表面の微細構造の違いに関する体系的な知見について議論を進め、生物-材料-情報科学と言った分野横断型の学際研究についても、次の発見を導きだすために積極的に進めていく。 本年度も本申請研究で得られた知見に関しては積極的に論文や学会で発表を行うとともに、一部の開発した材料に関しては特許の取得も検討する。また、これまでに得られた知見をまとめ、最終年度に向けたデータの整理を行っていく予定である。
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