研究課題/領域番号 |
26713004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西野 邦彦 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (30432438)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トランスポーター / 多剤耐性 / サルモネラ / 大腸菌 / 緑膿菌 / バイオフィルム / 細菌 / 抗菌薬 |
研究実績の概要 |
多剤排出トランスポーターは、細菌において多剤耐性化の原因になることが知られている。これら多剤排出トランスポーター遺伝子は、人類が抗菌薬を使用する前から存在しており、地球上の様々な環境に細菌が適応するために必要な最も基本的な生存戦略因子であると考えられる。しかし、多剤排出トランスポーターが細菌にとって生理的にどのような役割を担っているのかは、ほとんど明らかにされていない。本計画では環境適応や細菌多剤耐性化におけるトランスポーターの役割を明らかにすることにより、細菌感染症の新たな治療戦略につなげることを目的に研究を推進した。 今年度は、宿主環境におけるトランスポーターの役割に注目して解析を進めた結果、胆汁酸がRamR/Aの制御ネットワークを介して、多剤排出システムをコードしているacrABとtolC遺伝子の発現を誘導し、サルモネラの耐性化を上昇させることを明らかにした(J Antimicrob Chemother誌にて発表)。また、大腸菌の多剤排出トランスポーターが、薬剤耐性だけでなく、バイオフィルムの形成維持において重要な役割を担っていることを明らかにした(Int J Antimicrob Agents誌にて発表)。また、鉄欠乏時に細菌体内で合成された鉄キレーターであるエンテロバクチンを、外環境から鉄を獲得するために多剤排出トランスポーターが輸送している事実を突き止めた(PLoS One誌にて発表)。また、薬剤耐性の観点から、メチルグリオキサールの多剤耐性緑膿菌に示す抗菌性(Front Microbiol誌にて発表)や、消毒剤のトリクロ酸耐性におけるサルモネラ多剤排出トランスポーターの役割について明らかにすることができた(Int J Antimicrob Agents誌にて発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
胆汁酸による多剤排出トランスポーターの誘導機構という新たな細菌多剤耐性メカニズムを明らかにするとともに、バイオフィルム形成維持や鉄キレーター排出といった、多剤排出トランスポーターが担う新たな生理機能の発見があった。これら研究成果は、今年度、複数の科学雑誌で報告することができ、当初の計画以上に研究が進展している。成果は、新たな耐性菌感染症の治療戦略につながることが高く期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
多剤排出トランスポーターが宿主環境中においてどのような生理機能を担っているのかは未知の部分が多く、今後は、宿主の保有している免疫機構からの回避において、細菌の多剤排出トランスポーターがどのような役割を担っているのかを明らかにする目的で、マクロファージのサイトカイン産生におよぼす影響を調べる。産生誘導能の差が確認された場合は、Myd88やToll-like receptorノックアウトマウスから採取したマクロファージを用いて、どのTLRがトランスポーターによるマクロファージ産生抑制に関与していることを調べ、排出トランスポーターと免疫回避の関係について明らかにする。また、宿主環境物質がトランスポーターやその制御因子に結合しているのかを、生化学的に明らかにした上で、共結晶構造解析を行う予定である。多剤排出トランスポーターは多剤耐性化に関与し臨床的に問題となっていることから、その阻害剤検索は複数の企業でも行われている。トランスポーターが、多剤耐性化と細菌の病原性発現の両方に関与していることから考えると、トランスポーターを阻害することにより、細菌の病原性および薬剤耐性化が軽減される可能性がある。本計画では、多剤耐性菌による感染症克服を目的として、トランスポーター阻害剤による多剤耐性化と病原性の人工的制御法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、物品費と旅費が計画していたよりも支出が少なくなったため、次年度使用額が生じた。研究の推進には影響はない。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、主に細菌培養に必要な試薬等消耗品の購入として支出する予定である。
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