多剤排出トランスポーターは、細菌において多剤耐性化の原因になることが知られている。これらトランスポーター遺伝子は、人類が抗菌薬を使用する前から細菌ゲノムにコードされており、地球上の様々な環境に細菌が適応するために必要な最も基本的な生存戦略因子であると考えられる。しかし、多剤排出トランスポーターが細菌にとって生理的にどのような役割を担っているのかは、ほとんど明らかにされていない。本計画では環境適応や細菌多剤耐性化におけるトランスポーターの役割を明らかにすることにより、細菌感染症の新たな治療戦略につなげることを目的に研究を推進した。 今年度は、主に、宿主相互作用におけるトランスポーターの役割を明らかにするため、免疫との関連について調べた。マクロファージからのサイトカイン産生誘導能は、サルモネラ野生株よりもトランスポーター欠損株の方が高いことが判明した。また、阻害剤を用いて調べた結果、トランスポーターの機能を阻害すると、マクロファージからのサイトカイン産生量が高くなることが分かり、Myd88ノックアウトマウスから採取されたマクロファージでは、サイトカイン産生誘導能の差が無くなった。2つのToll-like receptorが、サルモネラ野生株とトランスポーター遺伝子欠損株の間で生じる差を認識していることが分かった(論文投稿準備中)。この他にも、細菌が保持するトランスポーター制御因子による胆汁酸認識機構を構造レベルで明らかにし(論文投稿済・審査中)、フェノタイプマイクロアレイを用いて、トランスポーターの新たな基質を決定する(J Infect Chemother誌掲載予定)等の成果があった。また、細菌の排出トランスポーターの阻害候補化合物を得ることに成功した。これらの研究成果は、新たな耐性菌感染症の治療戦略につながることが高く期待できる。
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