過栄養摂取に起因する生活習慣病や大気汚染に起因する呼吸器疾患は現代社会の深刻な健康問題となっており、その発症機序解明と創薬標的同定は薬学分野の重要な研究課題である。マクロファージなどの自然免疫担当細胞は、過栄養摂取により生じる尿酸塩結晶などの代謝物結晶やシリカなどの環境汚染物質に応じて炎症性因子の産生を誘導し、生活習慣病や呼吸器疾患の発症要因となる。自然免疫関連受容体であるNLRP3は、これらの刺激性粒子によるファゴソームの損傷に応じてアダプター因子ASCおよびプロテアーゼCaspase-1と共にNLRP3インフラマソームを形成し、サイトカインIL-1betaやIL-18の放出を介して炎症を惹起する。研究代表者は、刺激性粒子により誘導される炎症について、誘導機序の解明と制御化合物の同定に取り組んだ。H28年度までに、NLRP3インフラマソームの活性化を抑制する化合物を見出し、作用機序の一端を明らかにしている。また、刺激性粒子はNLRP3インフラマソーム非依存的に細胞死やIL-1alpha放出を誘導することも見出している。それを受けてH29年度は、刺激性粒子によるIL-1beta・IL-1alpha放出や細胞死誘導を抑制する化合物について解析を行い、その作用機序の一端を明らかにした。また、刺激性粒子に応じてNLRP3インフラマソーム非依存的に放出される因子についての解析を行い、ATG7などのAutophagy-related proteinが一部の因子の放出を制御していることを突き止めた。さらに、刺激性粒子に対する炎症応答とは別に、DNAウイルスに対する防御応答や自己DNAに対する炎症応答に関する研究も行った。細胞内DNAに応じてIFNの産生を誘導するcGAS-STING経路の活性化には、膜輸送制御因子であるRAB2BとGARIL5が必要であることを明らかにした。
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