研究課題
本研究期間では、CYLDの発現消失が癌患者の生命予後を左右する要因を解明し、CYLDの観点から難治癌の治療戦略開発に新たな道を切り開くべく、以下の3つの項目について継続して検討を行った。【1】腫瘍組織におけるCYLD発現消失の原因究明:これまでの結果から、各種がん患者由来の腫瘍組織(口腔扁平上皮癌、神経膠芽腫、乳癌など)における低酸素領域におけるCYLD発現低下に関して、各種癌由来の培養細胞においても同様の現象が確認されたため、そのメカニズムについて解析したところ、標的遺伝子発現を特異的に抑制するmicro RNA(miR-182など)や転写因子(Snail-1)などの発現変動が一部関与している可能性が示された。【2】CYLD消失に伴う腫瘍悪性化に関与する細胞シグナルの同定:これまでに明らかになっていたCYLD発現低下によるTGFβシグナルの過剰な活性化のメカニズムとして、CYLD消失によってTGF受容体(TGFR)の安定化(分解低下)が起こり、TGFシグナルの持続的な活性化が惹起され、結果として口腔扁平上皮癌細胞の悪性化(浸潤能・遊走能上昇)に関与している可能性が示された。【3】抗癌剤の薬剤感受性を左右するCYLDの新規標的分子の同定:口腔扁平上皮癌においては、CYLD発現低下により抗がん剤(シスプラチン、5-FUなど)の細胞内蓄積量が低下し、結果として抗がん剤耐性を獲得している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、腫瘍組織におけるCYLDの詳細な分子機能動態を明らかにし、CYLDの観点から難治癌の治療戦略開発に新たな道を切り開くことを目的としているが、本年度の結果から、【1】CYLD発現低下の要因として、腫瘍組織に多く存在する低酸素環境によるmicro RNAや転写因子の発現変動が関与していること、【2】CYLD発現低下に要よる悪性化形質の獲得には、TGFβなどの細胞シグナルの活性化に必要なシグナル分子の異常な挙動が関係していること、【3】CYLD発現低下による抗がん剤耐性の獲得には、抗がん剤の細胞内蓄積量の低下が一部関与していること、などの成果が明らかとなっており、次年度以降計画している分子動態解析を遂行する上で十分な知見が得られている。
本年度得られた研究結果・知見を基盤とし、各項目の今後の研究推進方策として、【1】低酸素により惹起されるmicro RNAや転写因子の発現変動とCYLD発現消失との関連性の解明【2】CYLD発現低下により挙動の変化する各種シグナル分子の同定、相互作用メカニズムの解明【3】CYLD発現により変動する薬剤トランスポーターやアポトーシス関連因子の同定と感受性との関連性の検討上記1-3の項目を実施し、腫瘍組織におけるCYLDの臨床的意義の解明・分子動態の解明を継続して遂行していく予定である。
本年度は、細胞培養を用いたCYLDの発現の in vitro の機能解析が中心であったため、多くの抗体が必要となる患者組織を用いた解析(免疫組織染色など)、LC-MS/MSを用いたプロテオーム解析などの実施ができなかったため。
次年度は、これまでのin vitroの解析結果をもとに、CYLD発現低下の臨床的意義の解明・検証を目的とし、患者組織を用いた検証(免疫組織染色など)、LC-MS/MSを用いたプロテオーム解析を実施する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
臨床化学
巻: 45 ページ: 120-126
Oncoimmunology
巻: 5 ページ: e1123368
10.1080/2162402X.2015.