研究課題
関節の骨化を呈する異所性骨化症は、運動障害を招く重篤な疾患である。現在、異所性骨化症の治療は、高いリスクを伴う外科手術のみであり、新たな治療法の開発が焦眉の急である。本研究では、石灰化にかかわる骨芽細胞様線維芽細胞や骨破壊を担う破骨細胞に対する新たな創薬標的の同定を試みるとともに、人工多能性幹細胞(iPS細胞)によるアプローチを併用することで、異所性骨化部位で骨吸収と骨形成を創薬と細胞療法によって操作する新たな方法論の確立を目的とする。これによって、骨吸収と骨形成を標的とした二相性の治療を効果的に実施することで、革新的な異所性骨化症の治療手段として確立することを目標に掲げる。本年度では、iPS細胞から破骨細胞を効率的に分化誘導する培養法を確立した(JBMM 2014)。従来方法では、共存培養を用いた方法が用いられているためにストローマ細胞などの混入が避けられず、移植のための細胞を作製する手段として問題があった。当該年度の研究を通じて、高い分化効率で破骨細胞を作製できる単独培養法を確立した。これによって、異所性骨化病態モデルマウスの治療実験で利用できる細胞の大量作製が可能となることが期待できる。さらに、本年度では、破骨細胞の分化制御を可能にする新たな創薬標的を同定した(Nature Med. 2015)。即ち、破骨細胞の新たな分化制御因子としてDNAメチル基転移酵素Dnmt3aが重要な働きをもつことを見出した。さらに、新たに探索した当該遺伝子の阻害剤を用いることで、破骨細胞形成を生体レベルで抑制できることが明らかとなった。これによって、当該遺伝子を制御することで、破骨細胞を人為的に制御できることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本年度では、iPS細胞からの破骨細胞の分化誘導法の確立に加えて、破骨細胞の制御にかかわる新たな創薬標的の同定にも成功しており、おおむね順調に進展していると考えられる。
本年度において作製に成功したiPS細胞由来の破骨細胞が、異所性骨化病態モデルマウスの治療実験において利用可能かどうかを検討する。また、今回新たな創薬標的として同定されたDnmt3aの活性を調節する新規化合物の探索に取り組むことで、異所性骨化部位での骨破壊誘導を可能にする新規薬剤の同定を試みる。
遺伝子改変・移植マウスの作出に想定以上の時間を要したのに加えて、解析に十分な個体数の確保もなかなか進まなかったために、当該マウスの解析費用が次年度に生じた。
現在、遺伝子改変・移植マウスの作出が順調に進んでいるために、本年度において繰り越し分(マウスの解析費用)の執行を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 5件)
Nature Medicine
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