研究課題
我々は、精原細胞を、妊孕能を有する機能的な精子へ分化誘導する方法の開発に成功している。この方法における問題は、マウス個体から採取された組織に依存した方法であるという点である。したがって、本研究課題では、in vitroで精巣細胞を誘導し立体的な精巣組織をin vitroで構築する方法を開発することが目的である。本年度は、精巣を構成する細胞の中でも、精子形成において最も重要な役割を果たすセルトリ細胞でGFPを発現するマウスであるSox9-EGFPマウスからES細胞を樹立した。このSox9-EGFP ES細胞を使い、精巣細胞を分化誘導する実験を行っている。それと同時に、Sox9-EGFP ES細胞に対し、赤色蛍光タンパクtdTomatoの導入を行った。Sox9-EGFPは、軟骨細胞など、いくつかの細胞でも発現することが知られており、それのみでは信頼性が低いためである。そのため、Dmrt1-tdTomatoあるいはAmh-tdTomatoをノックインし、デュアルレポーターのES細胞の樹立を試みた。この実験はゲノム編集技術の一つであるCRISPR/Cas9システムを使用した。我々は、CRISPR/Cas9システムを用いる遺伝子改変が困難な精子幹細胞でも、高効率でノックインが可能になることを発表している。これらES細胞で、中間中胚葉を経由した腎臓細胞の分化誘導法(精巣細胞は細胞の起源が近い)をもとに培養条件を種々検討した結果、Sox9-EGFP 及びDmrt1-tdTomatoが共陽性の細胞が出現するようになった。以上の研究と平行し、精巣の器官培養法によるin vitro精子形成法の改良にも取り組んだ。その中で、成熟マウスの精巣組織を器官培養しても、精子形成が進行することを発表することができた。しかし、その効率は、未成熟マウス精巣を培養した時に比べ、大きく劣っていた。成熟マウスの精巣では、培養初期にその大部分が壊死してしまうことが原因と考えられ、今後の課題となった。
2: おおむね順調に進展している
デュアルレポーターをもつES細胞が作製できたことにより、今後の研究を進める基盤を整えることができた。これらの細胞を使用することで、研究の進展が期待できる。ゲノム編集技術を取り入れることで、精子幹細胞の遺伝子改変に成功した。この技術はES細胞にも転用可能で、有用な技術となる。また、成熟マウスの精巣組織の器官培養に関する報告も行った。
デュアルレポーターES細胞を分化誘導し、Sox9-EGFP 及びDmrt1-tdTomatoが共陽性の細胞が出現するようになった。これらの細胞をqPCR法や免疫染色法を用いて、精巣細胞であるかを調べる。さらに、精巣細胞であることの、機能的な証明として、精巣組織再構成法を用いて調べる。一方で、現状では、精巣細胞はごくわずかで有り、ほとんどの細胞は腎臓細胞であると予想されるため、精巣細胞に特化した培養条件へ改良する必要がある。
分化誘導した細胞で網羅的遺伝子発現解析を行う計画であったが、細胞の準備や予備的なデータの不足により、来年度以降に見送ったため。
分化誘導条件の効率化のため、培養添加物など消耗品の購入にあてる。また分化誘導した細胞で網羅的遺伝子発現解析に使用予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件)
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