敗血症は一旦発症すると多臓器不全などを経て約半数が死に至るきわめて重篤な病態である。敗血症においてはミトコンドリアの障害、NOやROSといった酸化ストレスが諸臓器の構造や機能に障害を与える事が明らかになっている。一方、一酸化炭素は、血管弛緩などの循環調節にも関与し、様々な病態から細胞を保護するという報告が多く見られている。敗血症においては、一酸化炭素を誘導した動物にエンドトキシンを投与すると死亡率が低下することや、一酸化炭素の誘導酵素であるヘムオキシゲナーゼ1が生体内における障害ミトコンドリアのオートファジーを促進することが報告されるなど、多くの論文が敗血症に対する一酸化炭素の保護作用を報告しているが、そのメカニズムの詳細は明らかになっていない。本研究では、生体内一酸化炭素に着目し、リポポリサッカリド誘導敗血症モデル動物の心臓における障害ミトコンドリアの処理能や心機能への影響などについて検討した。その結果、一酸化炭素を誘導した敗血症モデル動物の心臓では、オートファジーによる障害ミトコンドリアの処理能力が高まること、リソソーム・ミトコンドリア再生機構が活性化されること、酸化ストレスが軽減されることなどが示された。さらに、一酸化炭素誘導が敗血症における心機能障害にどのように寄与するかについても併せて検討した。その結果、敗血症モデル動物へのリソソームとオートファジーの融合を阻害するクロロキン投与によって、他の臨床症状に先行して左室駆出率の低下が顕在化することが示されたが、早期の一酸化炭素誘導によってこの低下が改善傾向を示す事が示された。したがって、心臓においては一酸化炭素誘導が細胞保護的に働き、さらに機能面での改善(心機能障害の改善)に働くことが明らかになった。本研究から得られた結果は、法医剖検診断に有用であるのみならず重症敗血症患者の救命に寄与し得る事が期待される。
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