研究実績の概要 |
本研究は、選択的スプライシングを調節するRNA結合タンパク質群であるSRSF (Serine/Arginine-rich splicing factor)をコードするゲノム領域に内在された、超保存領域(Ultraconserved region: UCR)の持つ新しい細胞内機能を明らかにすることを主目的とした。 これまでSRSF遺伝子を介したRNAプロセシング異常と発がん及び癌悪性化機構について研究し、大腸がんで高発現するスプライシング調節因子SR(Ser/Arg)蛋白質(SRSF3)は、酸化ストレス下でHIPK2のスプライシングパターンを変化させ、p53の活性化を抑制することを見出した。また、大腸がん細胞は、長い3’UTRをもつ BCL2 mRNAスプライスバリアントを選択的に誘導して細胞死を抑制する機構が存在することを見出した(Kuwano et. al., Cell Death & Differ., 2015)。 また、UCRより転写されるTRA2β4 mRNAは、エクソン2に中途ストップコドン(premature stop codon: PTC)を持つPTCバリアントであるが、大腸癌細胞の核に局在し、ナンセンスRNA分解システムによる分解を免れていることを見出した。さらに、TRA2β4をノックダウンした大腸癌細胞株において、細胞増殖の低下とβ-ガラクトシダーゼ陽性の細胞老化の誘導が確認できた。TRA2β4がステムループ構造を形成し、転写因子Sp1とp21遺伝子(CDKNA1)プロモーターとの結合を競合阻害することで、p21の誘導を低下させ、細胞老化を阻害するメカニズムを新たに見出した(Kajita et. al., Oncogenesis, 2016)。
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