研究課題
(1)安定的にiPS細胞から心筋細胞を分化誘導する系の構築Gordon Kellerらが報告した胚様体形成を介して心筋細胞を分化誘導する手法(Keller法)には安定性・汎用性・コストといった問題点がある。Keller法で利用されているStemPro34に含まれている組成が明らかでない成分や毒物である2-メルカプトエタノールを置換することで新規心筋細胞分化誘導培地を開発した。また、Keller法で用いられているサイトカイン成分を全て低分子化合物に置換することで、安価に安定して心筋細胞への分化誘導が可能なプロトコルを開発した。胚様体形成手法に工夫を行うことで技術的要求度を軽減させ、誰でも簡単に心筋細胞作成のための胚様体を作成できる手法を確立した。心筋細胞分化誘導培地および分化誘導プロトコルについては特許出願を行った。胚様体形成手法についてはノウハウ化した。(2)iPS由来心筋細胞から成熟した心室筋のみを精製する技術成熟した心室筋で高発現する遺伝子を蛍光標識し、iPS由来心筋細胞に取り込ませることで成熟した心室筋細胞を生きた状態のまま分取することに成功した。分取後、パッチクランプ法、免疫染色、リアルタイムPCR法を利用した解析を行い、成熟した心室筋が分取できるいることを確認し、特許を出願した。(3)iPS由来心筋細胞を成熟化・心室筋化させる化合物のスクリーニングiPS由来心筋細胞を96穴プレートに播種し、MLC2vとMLC2aで染色した。MLC2v/2a両陽性の未熟な心室筋細胞の割合を減らす化合物を市販ライブラリーからスクリーニングしたところ化合物Xを同定した。化合物Xはある酵素Aの阻害剤で、酵素Aと逆の作用を持つ酵素Bに対する阻害剤である化合物YはMLC2v単独陽性細胞の割合を減らし、MLC2v/2a両陽性およびMLC2a単独陽性細胞の割合を増加させた。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、心筋細胞分化誘導培地・プロトコルおよび心室筋精製技術に関する2件の特許申請を行った。従来の胚様体形成を介して心筋細胞を分化誘導する手法では、コロニー状のiPS細胞を酵素処理したのちに、徒手的に「適度な大きさ」までコロニーを砕く技術が含まれており、実験者間や心筋細胞の分化誘導ロット間で心筋細胞への分化誘導効率が異なる原因となっていた。当初の計画には含まれていなかった誰でも簡単に心筋細胞作成のための胚様体を作成できる手法を確立することで、従来の課題を解決することに成功した。また、当初の計画ではiPS細胞由来心筋細胞を成熟化・心室筋化させる化合物のスクリーニング系の構築のみを実施し、実際のスクリーニングは平成27年度に実施する予定であったが、想定以上にスクリーニング系が早期に構築できたために市販ライブラリーのスクリーニングを行うことができ、ヒット化合物を同定することができた。
平成26年度に確立したスクリーニング系を用いて、さらに多くの化合物ライブラリーをスクリーニングし、より効率よく心筋細胞の成熟化・心室筋化を可能にする化合物を同定する。また、平成26年度に同定した化合物X・Yの標的分子である酵素A・Bがどのようにして心筋細胞の成熟化ないし心室筋・心房筋の分化を制御しているかを明らかにする。さらに、心筋細胞の成熟化メカニズムが心不全に伴う心筋細胞の胎児化の鏡像となっているのではないかという仮説をもとに、成熟化を制御する化合物が心不全の発症を抑制することができる可能性について検討するとともに、成熟した心筋細胞を用いて心筋細胞のFunctional assay系(カルシウムイメージングや活動電位測定)を構築する。
当初の計画では窒素ガス発生装置を購入する予定であったが、ガス発生量が少なく、インキュベータ開閉後、低酸素状態に復旧するのに時間を要することが明らかになったため、購入を見送った。また、人件費についてはエフォートに応じて按分することにしたため、当初予定より少額の執行にとどまった。一方、当初の予定以上に研究が進捗し、海外学会で2度演題が採択されたため、旅費を計上した。また、外部機関に受託で依頼した電気生理学的解析の費用が想定以上に必要となった。想定以上に経費を必要とした旅費・その他の経費は物品費・人件費から充当したが、差額が生じ5,678円の次年度使用額が発生した。
5,678円と少額のため、次年度学術研究助成基金助成金と合算して消耗品の購入に充てる。
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