研究課題/領域番号 |
26713029
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森本 充 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, チームリーダー (70544344)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気道上皮細胞 / 発生学 / 神経内分泌細胞 / Notchシグナル |
研究実績の概要 |
本研究では、呼吸器の発生・再生の基本原理を理解するため、呼吸器の組織幹細胞の成り立ちとその周辺環境に注目した研究を行っている。特に気管支分岐点の幹細胞-ニッチ複合領域 ”NEB”の形成過程の解明と、NEBが含む分化多能性を持った細胞の誘導メカニズムの解明を目的としている。本年度は、NEBの細胞が多分化能を維持できる原理、およびNEBの中核であるNE細胞が分岐点まで移動するメカニズムの理解のため、NE 細胞の遺伝子発現の解明に取り組んだ。マイクロアレイを用いた発現解析のため、昨年に引き続き胎児肺からのNE細胞単離実験を行なった。検討の結果、セルソーターを使った手法の改良により、90%以上の純度でNE細胞を単離することに成功した。単離したNE細胞を、マイクロアレイを使ってトランスクリプトーム解析した。解析データを用いて細胞移動に関わるケモカインや細胞接着因子を調べたところ、Cxcr4とN-cadherinの発現を確認できた。そこで胎児肺をCxcr4阻害剤とともに臓器培養を行ったが、NE細胞の分布に変化は見られなかった。呼吸器上皮細胞特異的N-cadherin KOマウスを作成したが、NE細胞は正常な位置に存在した。すなわちこれらの因子はNE細胞の移動、クラスター化に必須ではなかった。今後は移動の止まったNE細胞の発現遺伝子との比較によりNE細胞の移動に関わる遺伝子の候補を見つける。さらにゲノム編集技術を使って、個体レベルでの遺伝子破壊により、NE細胞の移動、クラスター化に必須な遺伝子を同定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、NEBの細胞が多分化能を維持できる原理、およびNEBの中核であるNE細胞が分岐点まで移動するメカニズムの理解のため、NE 細胞の遺伝子発現の解明と、配列認識型人工ヌクレアーゼ、特にCRISPR-Casを使用して、個体レベルでの遺伝子破壊を利用した機能スクリーニングを行うことを計画した。マイクロアレイを用いた発現解析のため、昨年に引き続き胎児肺からのNE細胞単離実験を行なった。前年度NE細胞の単離にセルソーターもしくはマイクロキャピラリーを用いた手法を検討した。その結果、セルソーターを使った手法を改良し、NE細胞単離を最適化することに成功した。この手法ではNE細胞と迷走細胞がEGFPでラベルされたRET-EGFPマウスの胎児肺を採集し、1細胞レベルにまで分解処理を行った。NE細胞が活発に移動しているE14.5日肺の上皮細胞をEpCAM抗体で標識し、セルソーターを使ってEGFP+/EpCAM+細胞を単離した。NE細胞は組織における含有率が0.7%以下のため回収量は多くないが、1個体あたり1000個のEGFP+/EpCAM+のNE細胞を90%以上の純度で単離することに成功した。胎児肺組織からNE細胞の単離に成功したことで、トランスクリプトーム解析や、細胞培養系を使った細胞生物学的アプローチが可能になった。我々はまずマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析を行った。まずすでにNE細胞で発現が確定している遺伝子を検証したところ、確かに優位に発現が認められた。細胞移動に関わるケモカインや細胞接着因子を網羅的に解析したところ、Cxcr4とN-cadherinの発現を確認できた。そこで胎児肺をCxcr4阻害剤とともに臓器培養を行ったが、NE細胞の分布に変化は見られなかった。呼吸器上皮細胞特異的N-cadherin KOマウスを作成したが、NE細胞は正常な位置に存在した。すなわちこれらの因子はNE細胞の移動、クラスター化に必須ではなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今回のアレイの結果では候補遺伝子を絞りこむことが難しかった。NE細胞は発生後期では移動を止めると考えられるため、E18.5のNE細胞の単離、アレイ解析を追加することで、NE細胞の直線的移動に関わる遺伝子を同定していくつもりである。同定された候補遺伝子に関して、動物施設の協力を受けながらCRISPR-CasシステムによるKOマウスの作成を行いたい。作成されたKOマウスのNEBの形態、NE細胞を観察し、異常を確認することで機能遺伝子の同定とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はNEBが活性化状態にある発生期のNE細胞を胎児肺から単離し、NE細胞発現遺伝子解析からトランスクリプトームの比較を行なった。トランスクリプトーム比較から、活性化NEB特異的因子の同定を試みた。さらに、配列認識型人工ヌクレアーゼ、特にCRISPR-Casを使用して、個体レベルでの遺伝子破壊を利用した機能スクリーニングを行う予定であった。最終的な研究成果から“なぜNEBの細胞は多分化能を維持できるのか?”という根幹的な問いの答えを求めようとしていた。 しかしながら、実験を担当していた研究員の海外留学が予定よりも早まり、11月に研究室を去ることになってしまったため、研究が遺伝子発現解析で止まってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究員が去った後、研究代表とテクニカルスタッフで組織切片の解析を進めている。しかし、専任の研究員がいないことで研究の進みは遅い。4月から新たな研究員が参加することになっており、それ以降に進展できると考えている。本研究費の研究期間中に研究を終えるため、時間が必要なノックアウト解析を変更し、単離したNE細胞へのノックダウン、阻害剤添加実験を行うことにする。マウス管理費およびNE細胞単離培養実験に必要な消耗品費用の360万円を次年度に使用する。
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