本研究では、呼吸器の発生・再生の基本原理を理解するため、呼吸器の組織幹細胞の成り立ちとその周辺環境に注目した研究を行っている。特に気管支分岐点の幹細胞-ニッチ複合領域 ”NEB”の形成過程の解明と、NEBが含む分化多能性を持った細胞の誘導メカニズムの解明を目的としている。本年度は、NEBの細胞が多分化能を維持できる原理、およびNEBの中核であるNE細胞が分岐点まで移動するメカニズムの理解のため、NE 細胞の遺伝子発現の解明に取り組んだ。マイクロアレイを用いた発現解析のため、昨年に引き続き胎児肺からのNE細胞単離実験を行なった。検討の結果、セルソーターを使った手法の改良により、90%以上の純度でNE細胞を単離することに成功した。単離したNE細胞を、マイクロアレイを使ってトランスクリプトーム解析した。解析データを用いて細胞移動に関わるケモカインや細胞接着因子を調べたところ、Cxcr4とN-cadherinの発現を確認できた。そこで胎児肺をCxcr4阻害剤とともに臓器培養を行ったが、NE細胞の分布に変化は見られなかった。呼吸器上皮細胞特異的N-cadherin KOマウスを作成したが、NE細胞は正常な位置に存在した。すなわちこれらの因子はNE細胞の移動、クラスター化に必須ではなかった。さらなる遺伝子解析を行うにあたり、マイクロアレイではNE細胞の個性を解明するには不十分と考え、1細胞シークエンスの手法を取り入れることにした。移動している最中のNE細胞と止まったNE細胞の発現遺伝子をクラスター解析によって分離し、NE細胞の移動に関わる遺伝子の候補を見つけることを試みた。現在はシークエンスを完了し、解析を行っている。今後候補遺伝子について、さらにゲノム編集技術を使って、個体レベルでの遺伝子破壊により、NE細胞の移動、クラスター化に必須な遺伝子を同定する。
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